砂糖菓子の虚像を見ていた(たべたらなくなった)
※Secret Flyflapのゴキさんが前編
※Psyのニシカワさんが後編
※私のこれはお二人の作品のオマケというか、二次創作というか。ぶち壊しになってしまっていたらすみません・・・!!
※R18
※淫語、ヒーイッヒッヒッヒ、3P、狂気、純愛、ハッピーエンド。
私は祖父に育てられた。父はいない。母もいない。気が付けば私は祖父と、暗く黴臭いジメジメとした古い屋敷に二人で暮らしていた。彼は随分厳しい人で、私は彼の良識に従い躾られて育った。
菊、という男にしては珍しい、少し古風な名前も祖父が名づけたのだという。花の名前をつけられたけれど、私は彼の期待通りに育っただろうか?子供らしい朗らかさや健やかさも無く、ただ彼の言うがままに怯えながら暮らしていた私は、惨めで出来の悪い子供だったに違いない。どちらが先だったのかはわからない。その性格が生来のものなのか、彼のルールをひとつなりと破ったときに与えられる恐ろしい体罰のせいなのかは。食事中に取り落としかけた茶碗を無作法に掴んだときには柱に縛られて、延々と殴りつけられた。ひとつ殴り、祖父は席を離れ、思い出した頃に私を殴りにやってくる。小便を催した私が無様に泣き喚いても、けして許されずそれどころかさらにひどく打たれた。そのうちに粗相をした私の下肢を軽蔑した眼差しで見下ろして、頭から水を注がれる。気を失う寸前で許され、雑巾とバケツをぶつけられる。いっそ笑ってくれればいいのに。私は不思議だった。私をいたぶっている、その厳しい祖父の顔の向こうに笑顔が透けるようだったからだ。私は知っていた。
彼が、私をいたぶることを楽しんでいるのだと。
(お前のために仕方なく、という演技をしながら)
彼の暴力は執拗で、粘着質だった。真冬に、冷水を注いだ風呂に閉じ込められたこともある。
だから私は生き延びるために、その術を覚えなければいけなかった。
それは案外簡単だった。ただ「我慢」すればいいのだ。
お菓子も、辞書と古典以外の読み物も、大声をあげることも、夜更かしも、年頃になって覚えたかすかな性への欲望も、何もかもすべて、笑うこともせず、ただひたすら耐えた。そんな育ち方をした人間を、誰が好ましく思うだろうか?友達など当たり前だけれど私にはいなかった。祖父が私の世界のすべてであり、私の支配者だった。
「ぁう、あ、アッアッアッ、アッ、もっと、もっとくらさい、もっと、らめ、ぃや、あ、おなか、いっぱい、あっあっあっ」
揺さぶられて、後ろから突かれる。両腕を掴んで背後から突く、アルフレッドの顔は見えない。全裸で獣の体位で交わる私たちの正面に、アーサーは居た。いつものとおり、きれいにスーツを着込み、私たちの行為を膝立ちで見下ろしている。私は、秘所を突かれるだけでは足りずに、アーサーの股間の膨らみに向かって舌を伸ばした。
「たりな。たりないんれす、おくち、りょうほう、ぁ、っぅ、あうううっ、いやああああっ・・・口でしたい、いやあああっ、舐めたい、舐めたい・・・っ」
犬のように舌を出す私の目の前で、アーサーはチャックを下ろし、ペニスを掴み出して、おもちゃのようにそれをゆらゆらと揺らして見せた。飢えた犬に肉をちらつかせるように。いや、何の比喩もなくそのとおりなのだろう。私は犬だ。舌を垂らして、よだれ塗れの口を大きく開けて肉塊を啜りたくてしょうがない。大きく膨らんでいるそれを啜って、ぬめる淫液を飲み下してしまいたい。精液の味。大好きな精子の味だ。飲み下すのがもったいなくて、舌の上でいつまでも転がしていたい。顔にだされるのもいい。瞼も鼻も眉も髪も、白い粘液でべとべとにして、いつまでもその匂いをかいでいたい。カーテンを引いた室内は暗い。今が朝なのか夜なのかもわからなかった。ふと、あの祖父と暮らした古い家を思い出した。
(いやだな)
薄暗い場所は嫌いだった。あの家を思い出させる。いまだ、あの場所に囚われているかのように。
「ねえ・・っ、や、明るく、あかるくしてくらさ、い、ねっ、あっあっあっ、あっ、あかるく・・・っ、ねえ、私の、わ、わたしの、いやらしい穴、み、みて、みて・・・っ、ねえ、アーサーさん、みて、みてえええっ、みられたい、ねえ、みられたいいぃ」
「ああ・・・・、そうだな。アルがイったらそうしてやるよ。カーテン開けて、外の奴らにもお前の恥ずかしいところ見せてやろうな。ザーメン塗れの薄汚いビッチの、ゆるゆるのケツの穴まで。ほらほら、菊、これがほしいか?あ?」
アーサーはとっくに筋の張った、そそり立つペニスをけれど私に与えようとはしなかった。ブラブラとあやす様にゆすり、時にはわざとペチペチと頬に当てる。気が狂いそうだった。精液の匂いと味。そのことしか考えられなくなる。アルフレッドが肉を埋め、引きずりだす下の穴は痺れはじめていた。先に放たれていた精液が、じゅぶじゅぶと泡だった音を聞かせる。ああ。おじい様。ああ。いやだ。ここは暗い。昔を思い出す。ああ。老人の匂い。死を間近に控えた男の饐えた匂い。汚らしい歯列から覗く、妙に真っ赤な舌が伸びて、私の幼いペニスを吸った。ああ。私は、耐えるように育てたれた。楽しみなど一つもなかった。ただ時折、祖父が膝に乗せて頭を撫ぜてくれる。それだけが唯一の喜び。祖父は頭を撫でる。頬を撫でる。膝を撫で、太ももを辿る。彼の機嫌がよければ、彼はいつまでも撫でてくれる。ただ時折、何がそうさせるのか私には長いことわからなかったが、「ある衝動」に突き動かされ、彼は私を膝から突き飛ばし払った。忌々しそうににらみつけ、どこへなりといけと怒声を上げ、今しがた撫でていた私の頬を張った。老人の乾いた手のひらは、それでも男のそれだ。硬く骨ばった大きな手のひらが、振りかぶって振り下ろされる、その恐怖は体に染み付いている。誰かが何気なく片手を上げるだけで、恐怖に身をすくませてしまう癖は結局いまだに治らなかった。
「アッ、アッ、アッ、いい、いい、アルフレッドさん、もっと、もっと突いて、おねが、おねがい、もっと突いて、もっともっともっと、いっぱい・・っ」
獣のような唸り声を上げて、アルフレッドは背後から骨がぶつかるほど強く私の後ろをえぐった。ぐりぐりとペニスをすぼまりに押し込み、みっともないくらいに必死に腰を前後させている。射精が近いのだろう。かすれる、欲情に満ちた若い喘ぎ声は、聞いているだけで鳥肌が立つ。私の頭をおかしくさせた。
「いくよ、いくよ、菊、あっ、イクっ、いくよ、出すよ、オレの精子が菊のアナルをびちゃびちゃにするよ、あっ、ああ、ああああああ、あは、あひ、あひいいい、あはははハハハ、アハハハハハハハ、アヒ、ヒイイイ、アッアッア!」
「ホラ、菊、ほら、もうアルがいくぞ?いいのか?後ろと前の口、両方に同時にザーメンがほしいだろう?どうだ?おい、菊」
背後でアルフレッドは笑い続けている。私の腰を掴む両手がブルブル震えていた。私は、アルフレッドが腰をゆするだけでは足らずに、自らも膝を使ってペニスの律動を助ける。ぶじゅぶじゅと精液を肉でかき回す、すばらしい音がする。私は、目の前でゆれるアーサーのペニスを口に含みたいあまりに、泣き叫びそうになる。今このペニスを舌で味わうことができるのならば、私は何でもするだろう。自らの勃起したペニスは、シーツにしつこいほど擦り付けるあまり、血がにじんでいる。このセックスが狂っていることくらい、私は知っているけれど、今やめることなど不可能だった。そんなことはとてもではないけど、出来そうも無い。我慢できない。
「どうだ?欲しいか?ん?菊。おかしくなったか?舌を尖らせて見せろ」
「はひ、言う、言うとおりに、あっ、あっ、しますから、あ、ああああっ、くらさい、くらさいいぃ・・・っ・・・それ、あああああ、くらさい、のませてくらさい、のませて、あ、あ、・・・っ」
薄暗がりのなか、私はベッドに這い蹲りながらアーサーを見上げた。彼は笑っていた。スラックスのチャックからペニスをそそり立たせたまま、私を見て笑っていた。それは優しさや愛情ではなく、どこか恐ろしい、あざ笑うような笑みだった。
その顔を見上げて、私は思った。
ああ、いとおしい。
服従させられる、暴力染みたセックスはかつての祖父を思い出させる。
それは、虫歯をわざと、繰り返し何度も舌でなぞる様な自慰行為に似ているかもしれない。痛みを繰り返し繰り返し思い出し、上書きし、確認する。
祖父に犯されたのは、14の時だ。
無意識のうちに、私は彼が私を「そういう眼」でみていることに気がついていたのだろう。だからこそ、一人入浴している最中に、酒の匂いを漂わせながら祖父が乱暴に戸を開けたときもそれほど驚きはしなかった。ただ、思ったのだ。
(この人は我慢できなかったのだ)
そう思った。
風呂から引きずりだされ、冷たいタイルの上に横たえられた。足を開かされ、彼は顔をかがめて私の幼いペニスを吸った。浅ましく啜りたて、じゅぶじゅぶと涎をたらしながら、その後ろの小さな穴まで尖らせた舌で濡らした。汚い歯列からはみ出た舌が、飴玉をしゃぶるように私の股間でうごめく様を、どこか冷静に見下ろしながら私は祖父を初めて見下した。我慢できなかったのだ。この男も、性衝動だけは我慢できずに、今こんな醜態を自分にさらしてる。嘲笑する視線を感じたのか、行為の間中彼と眼が合うことはなかった。私の細い両足を掴んで揺さぶりながら、彼の眼はおそらく卑屈に歪んでいたに違いない。私は唐突に、祖父が私を撫でながら突然突き飛ばす衝動の理由を悟った。孫を膝に乗せ、頬を撫でながら彼は勃起したのだ。恐ろしくなって私を突き飛ばし、怒鳴り、頬を張った。愚かな老人だ。無様にかくかくと腰を揺らし、やがて老人は果てた。射精する瞬間、祖父は誰かの名を呟いたような気がする。それは母の名だったかもしれない。今となっては聞く術はない。私を放りだしたまま彼は浴室を出て行き、支度を済ませた私がついて風呂から上がると老人は鴨居に紐をかけてぶらぶらと揺れていた。祖父の足元に滴る汚臭のする水溜り。ぶら下がる彼は、今まで私があんなに恐れていた男と同一人物とはとても思えないほど力を失い、枯れて薄っぺらくみえた。人形のようですらある。ワラで出来た人形だ。前に回りこむと、小便で濡れた着物の前が膨らんでいて笑った。この男は、死してなお勃起している。アハハハハハ。伸びた首や、胸のあたりまで垂れた舌が、アニメを見てるようでおかしくてたまらなかった。爆笑して、畳の上をようよう這って、飽いた頃、私は家を出た。どうみても自殺だったし、私が一人居なくなったところで誰が追うだろう。あの家があれからどうなったのか、私は知らない。興味も無い。
「くわえたかったら、ほら、ここにチンポがあると思って舐めてみろよ。空中フェラだ。ほら。うまく出来たらオレのチンポ舐めさせてやるから」
私は喜んで舌を伸ばした。安いものだ。がくがくとアルフレッドに揺らされながら、舌を差し出してさもそこにペニスがあるかのようにいやらしく舌を尖らせ、筋をなぞる演技をした。アーサーは笑い転げ、ひいひいとベッドにのけぞって喜んだ。両手さえ自由なら、私は這っていき、寝転がり股を開いたアーサーのペニスを両手で握って離さなかったに違いない。けれど両腕はしっかりアルフレッドに掴まれており、私がどんなにもがいたところで、十九歳の若い青年のたくましい両腕は解けそうも無かった。アルフレッドは何度私の中でイったのだろう。もう数えていないので、わからなかった。射精感は長引くばかりで、絶頂に追いつかないのだろう。私の秘所をえぐりながら、アルフレッドは自分が犯されているかのようにずっと喘いでいる。ああ、ああ、とそれこそメスのように。泣いている声にも聞こえる。私は振り返ろうとはしなかったから、アルフレッドの表情まではわからなかった。彼が律動をやめない限り、私はアルフレッドを振り返ることは無いだろう。犯されていれば私は満足だったからだ。それに、今は何よりアーサーのペニスを口にしたくて、そのこと以外には考えられない。
だってそうでしょう?
セックスは我慢しなくていいのだから。
「あー、あう、あー、ねえ、アッマッ、アッ、みて、みてねえ、アーサーさん、みて、じょうずれしょ、私、上手に、できてるれしょ、舌で、ほら、くちで、ねえ、チンポ吸って、舐めて、全部、ほら、おしっこ、してもいいんれすよ、ねえ、して、してくらさ、あっ、おしっこでもいい、から、のみます、から、あっ、ね、あああぁあああっ!いやああぁああああ!くらさ、くらさいいぃ!!チンポほしい、ほしいです・・・ほしいからぁあああ!!」
私は泣き叫んでいた。大声でけだもののごときうなり声を上げ、嬌声というにはあまりに怖気だつような声を上げながらアーサーに向かって吠えた。涎と鼻水と涙を滴らせながら、笑い転げるアーサーの揺れるペニスを欲するあまりに、絶叫した。だって我慢しなくていいのに。セックスは、我慢しなくていいのに。あの、私を支配し、ただ耐えろといい続けた祖父でさえ、セックスの欲望には我慢できなかったのだ。私を嘗め回して犯して、射精した。だから、セックスは特別なのだ。
何一つ、我慢しなくていい。絶対に。
泣き叫ぶ私を押さえつけていたアルフレッドの指がふいに緩んだ。ひときわ強く大きく腰をグラインドさせて、ペニスを突き立てる。裂けるかと思うほどに広げられたアナルを、なおペニスで広げ、限界を超えようとするかの如くアルフレッドは強く押し込む。そして太いペニスが私の中でびくびくと跳ねて、それから温かいものを漏らすのが分かった。私もその叩きつけられた精液に興奮して襞でアルフレッドのペニスを締め付ける。いやだ。いやだいやだいやだ。だってそれだけでは物足りない。口で味わいたい。臭くて苦くて薄汚い白い精液を舌で舐め啜りたいのに。無我夢中でアルフレッドの腕を振りほどき、私はアーサーの両足に手をかけて押し広げた。ぬぽ、とアルフレッドのペニスが抜ける間抜けな音がして、ほとんど同時に私はアーサーのペニスにかぶりついていた。頭の中は真っ白で、スパークして閃く。歯を硬い弾力のある肉に突きたて、思い切り食いつく。ギリギリと顎の力で締め付け、引きちぎる。うれしくてうれしくて、たまらない。「ヒーイッヒッヒッヒッヒ、ヒイ、ヒハ、ヒイイイアハハハハ、アハハハハハハハ」。うれしくてうれしくて、笑いが止まらなかった。それでも頬張るには足らずに、口元を血で濡らしながらもう一度アーサーのペニスに食いつく。びちゃびちゃと血がアーサーの股の辺りをぬらす。絶叫は、聞こえたような気がする。でも分からない。まるで自分の周りに膜が一枚張られているかのようだ。真っ白な視界で、ただ、もっと、と思った。食いついて引きちぎり、指でほじくって引きずり出す。ぐちゃぐちゃと肉を咀嚼して、血を啜る。びくびくと揺れるアーサーの肉はたまらなく食欲をそそった。ペニスが欲しい。おなかがすいた。精液を飲みたい。セックスは我慢しなくていい。したいように、欲しいだけむさぼっていい。ほかの何を我慢してもかまわない。セックスだけは。だって。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ・・・?」
ハァハァと肩で息をしながら、私はふと我にかえった。手にしている、吐き気の催す排泄物の匂いをさせる真っ赤な塊を見下ろす。これ。なんだっけ。何をしてたんだっけと、手の中の肉を見下ろす。腸だ。
ベッドにへたり込みながら、手にした肉をそっとおろした。貧相な裸の体は血まみれで、精液と混ざって下肢の辺りはピンクになっている。血のしみこんだシーツのうえには、白蝋のような肌をしたアーサーが下腹部を血に染めて寝転がったままピクリとも動かない。アーサーの股間の辺りから伸びた腸は私が下ろした肉塊まで繋がっていた。
「・・・・・・・・・・・・・私・・・・」
肩越しに、背後を振り返る。アルフレッドは同じように全裸で、アーサーのごとき肌色をして呆然とこちらを見ていた。彼のしなだれたペニスは、擦り切れたように赤い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きく」
「私、・・・・・・・・・・またやったんでしょうか」
口の中で、何かが歯に引っかかっている。血まみれの指先で、歯を弄ると肉が取れた。腹が妙に満たされている。覚えのある感覚だ。
「・・・・ああ・・・またやったんですね・・・・・・」
もう一度アーサーを振り返った。彼は確かに絶命していた。同じような光景を思い出した。そうだ。家を飛び出したばかりの私を拾ってくれた、あれは同じアジア人の若い、陽気な男だった。季節を二つ分、幸せに暮らして、それから私のエスカレートしていくセックスへの要求に彼はこたえようとして答えきれず、別れようといわれた。私にはそれが許せなかった。
「前にも、同じことをしたんです・・・・私・・・・・セックス、したくて」
「・・・・・・・・き、く」
「セックス、したかったんです、わたし。でも別れようって。もう一緒にいられないって、君は狂ってるって、そう言われて。そういわれて、もうセックスできないって、そんなこというから。ひどいでしょう?ひどいと思うでしょう?アルフレッドさん、ねえ?だから私、頑張ったんです、好きになってもらえるように、きもち、よくなってほしかったから。気持ちいいから、セックスしたいって言って、言って欲しかったから。アジア系の若い男の人でした。ベッドに縛って、・・・・ずっとフェラチオしてあげて、彼の上で腰を振って、三日目くらいで彼が泣いて、泣いて、許してって言うから、だから、許せなかったから」
「・・・・・・・・・・・・・・アーサー・・・・し、死、」
「許せなくて、だってそうでしょう?私とっても我慢していたんです。彼が浮気をしても私を打っても、何をしても許したし、何をされても我慢できるんです。なのに、せっくす、してくれないから。だから」
咥えながら、噛み千切った。男の絶叫は心地よかった。気持ちいいんだ、と思った。だからこんなに大声を上げてくれている。うれしい。けれど男は絶叫して、そのうちにすすり泣きながら、動かなくなった。
「・・・・何人も、何人も、みんな、ひどいんですよ。アルフレッドさん。ねえ。みんなひどいんです。私にいっぱい我慢をさせるくせに、最後はセックスしないって。お前は頭がおかしいって。ひどいでしょう?」
最後に殺したのは誰だっただろう。顔も思い出せない。けれどその男の友人だったアーサーが、ベッドの上で血まみれになっていた私を見つけて、抱きしめて言ったのだ。
「・・・・・・・・・・幸せに、してあげるって。アーサーさんが言ってくれたんです。お前が、欲しいだけ欲しいものをやるって。こいつみたいに、お前を苦しめないからって。・・・・・・・・・何を犠牲にしてもいいからって。お前が好きだったんだって。・・・・・・・・・・・・わ、わたしを、あ、あ、あ、あい、あいしてるからって」
ぽたりと雫が私の膝に滴った。なんだろう、これは。分からない。透明な雫は、血と混じって流れた。勿体無いなと思った。だって今の雫はとてもきれいだった。まるで子供の欠伸の涙みたいに。無垢で、透明だったのに。
アルフレッドの綺麗な両目からも、ぽろぽろと何かがこぼれている。私の雫とまったく同じものがたくさん。涙だ。彼は泣いていた。アルフレッド。アーサーの宝物。大事な弟。そして、私の『犠牲』。
オレ一人で足らないのなら、弟もお前にやる。だからな菊。ほかの男を欲しがらないでくれ。オレはお前に何でもやるから。幸せに、必ずしてやるから。おままごとのようにただ幸福で、お菓子のように甘い日常をお前にやるからと。
そしてそれは事実だった。私たちは真に家族だった。たとえそれが、虚像だったとしても、穏やかで優しい日常は、幸せの証だった。彼は言葉通り、私を幸せにしてくれた。かつて味わったことの無い幸福感と安堵感。誰も私に我慢を強いらない。アーサーは良き夫であり、頼もしい恋人でアルフレッドは生意気だけれど、私を慕ってくれて、憧れていた弟になってくれた。それを少しずつ蝕んだのは、隠し切れない私の情動だった。それだけでは満たされない欲望が、疼いて疼いて、そしてこの兄弟の平穏な日常を巻き込んでどす黒く染めて、そして叩き壊した。アーサーは菊のどんな欲求にも答えて、同じところまで落ちてきてくれた。大事な弟であるアルフレッドまで菊の欲望の餌食に差し出した。なのに、それでも私は満ち足りなかったのか。
「・・・・・・・・・・・・・・次を、探さないと」
「きく」
アルフレッドは、よく分からない顔をしている。困ったような、あきれたような。そんな顔で私をただ見ていた。ああ、かわいそうに。こういう顔には覚えがあった。昔、誰かに無理やり押し込められた精神病院に居た少女がこんな顔をしていた。
「・・つぎ・・・・・・・・・・・つぎ・・・・・・・・・ああ、だめですね、次なんてないんだ。次じゃない。アーサーさんが、アーサーさんじゃないと・・・・・・・・ああ、そうか・・・・・・・・・・死んじゃったんですよねえ・・・・・」
「きくー・・・きくぅー・・・・・あー・・・・」
「そうか・・・・・・・そうですね。私、アーサーさんを愛しているんです・・・・・・もうセックスできない」
思考が乱れて、まるでバラバラのパズルのピースのようだ。言葉が閃いては消え、何をすべきなのか、どうしたらいいのかが分からない。私は途方にくれながら、それでも分かったことがひとつ。もうアーサーとはセックスできない。
「ああ・・・・・・・・・困ったなあ・・・・・アーサーさんじゃないとダメなのに・・・・・・・・・・・」
あーあー・・・と涎と涙をこぼしながら泣く、アルフレッドを私は眺めた。
「アルフレッドさん、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。どうしよう・・・・・・・・・アーサーさんが死んでしまった。ごめんなさい」
「・・・・・・あう、あうああ・・・・・きく・・・」
死のうか、と問うけれど、アルフレッドは目を見開いたままだ。ぽろぽろと涙が滴ってははじけて散った。
「・・・・・・・・・そうですよね、私たちはだって、家族なんですから」
家族は一緒に居るのが一番幸せなんですよ、と優しく告げるとアルフレッドは無垢な顔でゆらゆらと揺れた。
愛してるってこういうことですよね、と私は呟き、アルフレッドを置いて一人ベッドを後にした。
偽りだったとしても、確かに幸福な時間はここにあったのだ。
だから私はどこへも行かないし、行けない。
一緒に居ましょうね。
ナイフがいい。せめて彼が愛してくれた私と大事な弟が苦しまずに、彼のそばにいけるように。
終