自分が、目を開けているのか閉じているのかすら判然としない闇。頬には冷たいコンクリートの感触。自分が横たわる場所がどこなのか、男には思い出せなかった。手足の感触はない。それが異常なまでに自分の体温の低下によるものだとは、すぐには気がつかなかった。声も出せず、何度か咳き込んだ後かすれた裏声で、助けを呼んだ。
 ここはどこだ。どうなっている。凍える指をすり合わせ、ゆっくりと身を起こす。なんども体が傾きそうになるのをこらえ、吐息をつく。
「だれか・・・・ちくしょう、どこだここ」
 それに、この匂い。男は顔をしかめ、息を詰めた。何かが腐ったような、獣のようなにおいだ。
 覚えていない。どうしてこんなところにいるのか。時間の感覚すらもない。仕事を終え、仕事仲間とのみに出かけた。やがて分かれ、家路に着くために一人で歩いていた。そこからの記憶がない。目が覚めたときには、この場所にいたのだ。一条の光もない。ただ強烈な凍えと闇。手探りで、おぼつかない足取りで男はゆっくりと、よたよたと歩き出した。
「目が覚めたかね」
 心臓をわしづかみにされたように、男の背筋がこわばった。心臓を取り出され、耳元に押し付けられているようだ。
 前方の闇が動いた。それは確かに人の形をしている。少しだけ慣れた瞳が、輪郭だけを捉えた。
そのしわがれ、老成した声音から老人だと悟り、男はゆっくり息をつく。
「・・なんだ、ここ。あんたがつれてきたのかよ」
「・・・眠ったままでもよかった。でも折角のショーだから、お前に見物させてやろうとおもうてな」
「・・・ショー?どうでもいいんだよ・・そんなもん。とにかく、寒くて・・」「お前が30番目の実験体だ」
「・・・・実験体」
 げっげっげっげっげっげっげっげっげっと、老人が蟇に似た大声を上げた。それが笑い声だとわかるまでに数瞬かかる。気がついたときには、体中に恐怖が走っていた。何が、というわけではない。それは本能的な恐怖だった。

 獣が炎を恐れるように、子供が暗闇を恐れるように。
 これは、人ではないものだ。

 自分の傍らに急速に、死が寄り添っていることに気がつく。
 これは、よくない。
 神様・・・。畜生神様。俺が何したって?
 ちり、と首筋の毛が逆立つ。刃物で背中を撫で付けられているようだった。優しく。
「う、わ・・」
 思い切り叫びたいのに声が出ない。痺れたままの両足はうまく動かず、そのまま後ろに向かって思い切り倒れこむ。そのまま赤子のように四肢で這いずり、むちゃくちゃに逃げ回る。
 どこでもいい。
 あの、声の主のいないところならどこへでも。
 これは、よくないものだ。
 神様。神様。死にたくない。
「・・・殺しはしない。殺すわけではない。ただお前に、生きながらいいものを見せてやるだけだ」
 ぺたぺたと裸足のような足音がゆっくりと、確実に近づいてくる。
「おめでとう!お前は選ばれた!さあ、地獄を楽しめ。味わえ。生きながらにして魂を引き剥がされる苦痛を私に教えておくれえ」
 何も見えない闇に向かってめちゃめちゃに手を振り回す。尻で後ずさり両足をもばたつかせる。そのとき首筋に生暖かい吐息を感じ、小さく叫び反射的に振り返った。
 獣の無数の顔があった。
 犬というにはあまりに醜悪、憎悪、愉悦、歓喜、全てに満ち溢れた顔をして。
犬がいっせいに顎をひらく。 
ぞろりと頬をなめ上げられる。そして背後から伸びてきた手に頭をつかまれた。

 

 悲鳴は、出なかった。

男の意識は途切れ、次に覚醒するときには、全ての感覚を引き千切られる痛みのさなかであった。

 

「また失敗だな。人にしろ、獣にしろ、定着しない。一過性のものだ」
 げっげっげっげっげっ。哄笑し、その足で足元に横たわる男を踏みつけた。 先ほどまで生きて泣きわめいていた男は瞳を見開き、ひゅうひゅうと浅く呼吸を繰り返すことしか出来ない。このままここにおいておけば、しばらくすれば凍えて死ぬだろう。もはや喋ることも、考えることも、感じることも、生まれ変わることも、できはしないのだから。
「・・・鋼の錬金術師をご存知ですか」
「うん・・・?しらぬ。国家錬金術師か」
「魂の練成に、その右腕を代償に成功した錬金術師です。実の弟の魂を呼び戻し、鎧に定着させたとか。その方法がわかれば、あるいは。いま、このイーストシティに」
「・・・・・おお・・・・」
 息を飲む音がし、狂ったように哄笑が響いた。
「・・・・・・すばらしい・・・!天の采配だ!神のご加護だ!いま、総ての駒が揃った。さあ、もう躊躇うことは何もない!地獄を開け!運命を信じよ!」
「どうします」
「その錬金術師とやらをつれておいで。・・・・・そして魂の定着を」
「ええ」
 今度はひそやかに、そしておぞましく笑いながら。

 

さあ、鋼の錬金術師を差し出せと。

 

 

 思えば、ロイマスタングという男との付き合いは長いのだ。初めて会ったのが11歳のとき。あの、忌まわしい人体練成を行ってしばらくしてからだ。あの頃のことは混沌として、あまりよく覚えていない。記憶があいまいで、手足を引きちぎられた苦痛ばかりを繰り返し味わっていたように思う。人体練成の、真理の代償にとられた手足と弟の体を思って苦痛ばかり、繰り返し。
 あのときのあんたは嵐のようで。
 雲を引き千切り、暗闇を吹き飛ばす、嵐のようだった。目の醒めるような。
 罪を犯したのに、誰もしかってくれなかった。その自分たちを、怒鳴りつけて引きずって、もう一度この世界に呼び戻してくれたのだ。
 口に出して直接いったことはないけれど、もうずっと感謝をしている。
 いつも、憎まれ口をたたいてしまうけれど、確かに世界がまだ厳然とそこにあることを教えてくれたのは、ロイだった。 
 世界を閉じようとしたらこじ開けて引きずり出して。
自分でも、こんな執着は奇妙だと思う。軍属になって、改めて自分たちの関係が奇妙なんだと知る。軍人って言うのは、こんな風に愛情や心配や思いやりをくれるものじゃないはずだ。ただただ厳しく、律せられた世界のはずだ。
 あんたが、俺たちにだけ優しいんだと思うことはうぬぼれなんだろうか。
 特別なんだと思うことは、思い上がりなんだろうか。

あの女が言ったように、確かに自分たちには「特別」になる理由なんか、何一つなかった。それでも特別なんだと信じたかった。

どうして、優しくするんだろう。
 どうして、優しくされると、こんな気持ちになるんだろう。
 ロイのことを考えると、いつもこんな風に正解がひとつも出ないのだ。誰かに聞いてみたいと思ったけれど、誰に聞けばいいのかもわからなかった。でも、こうしてロイのことを考えていると焚き火に当たっているような、体の中心を焼かれるような焦燥感と、それでいて健やかな暖かさに包まれる気分になれた。ロイに呼びつけられて口では悪態をつくが、本当はいやではないのだ。急に呼びつけられたり、つまらない用事を押し付けられたり、迷惑なほどご飯に誘ったり、そのたびに口では文句を言ったりはぶてて見せるけれど、本当はちっともいやじゃなかった。ロイは、口では命令だの従えだの何だの言うくせに、エドワードの本当にいやなこと、出来ないことをやらせようとはしないのだ。上司の癖に、欲しいものをねだるようにエドワードに接する。そんなものの言い方をされると、けして逆らえないのだ。じぶんは。そして、気がつけばロイのことばかり考えている。

ロイのことばかり、考える。

 

 
「・・・だからって、この二人で見回りはおかしいだろ」
制服の上に着込んだ黒のコートは軍からの配給だというが本当だろうか。ロイの身長や、その容姿にあつらえたようにしか思えない,嫌味な位ににあうそれを一瞥してエドワードは今度はわかりやすいように、強調して言った。
「国家錬金術師二人並んで見回りか?おかしくねえかこれ。要領悪くねえかこれ。そもそも、あんたが見回りなんかすることないだろうが。ああ?」
「二人で会話する機会がなかなかないからね。つまらない見回りに、このくらいのごほうびがあってもいいだろう?
 この外気の冷たさの中、よくもそんなに滑らかに口が動くもんだと思う。俺と一緒にいてごほうびになんのかよ。そう思いながらエドワードは闇の先を促した。
「もーいいから。早く済ませて帰るぞ。だいたいあんた、いつ家に帰ってんだよ。死ぬぞ、そのうち過労で」
「心配してくれるのか。嬉しいね。こら、コラコラ、そんなに急いでいくこともないだろう。見回りとは息抜きの別名じゃないのかね」
「ほんと、でたらめ・・・」
 ため息交じりの吐息は真っ白く漂い、まとわりつく。不吉なほど寒い。時計はすでに12時を回っていて、人通りは途絶えて久しい。結局熱も下がり、食欲も出て、エドワードは結局アルフォンスのみを宿に帰し、見回りに参加することにしたのだ。ほかの下士官とともに出るのだと思っていた。それが。まさか司令部を統括するこの男じきじきに見回りに出るなんて、誰が想像しただろう。そんな暇があれば、あの書類の山を片付ければいいのにとは、誰しも思っただろう。しかし、だれもこの男の子供のようなわがままにかなうわけもなく。
 今夜は雪も少なく、先ほどからちらほらふるけれど、いつものように積もるほどの大振りな結晶ではなかった。月が冴え冴えと光、雪に反射して、あたりは驚くほど明るい。
 二人が向かう先は、一番最初に死亡した男の発見場所だった。まだたった26歳だったという男の死んだ小さな公園は、町の喧騒から外れた場所にあった。少女が発見したとき、深雪にうずもれていたという。
「こんなとこで・・・どこに住んでたのかな」
 死体のあったという辺りを眺め、エドワードがつぶやく。背後に立つ男がそれに返事をしながら一人ごちた。
「資料によると駅前だな。ふむ。…全く反対方向だが」
 男はちょうど、公園の茂みの下にうつぶせになって死んでいたのだという。よった挙句行き倒れるには不自然な場所だ。そもそも、この冷気の中では酔いなどある程度は醒めてしまうのではないか。それに、外で寝るほど泥酔していたのなら、一人でこんな場所まで歩いてこれるはずがない。この近くは住宅ばかりで、そんな店は見当たらないからだ。
「・・・・不自然だよなあ」
「・・・・・茂みの下か。隠そうという意思はないな。私がもしこの公園内に、死体を捨てるのなら茂みの中に雪をかぶせておいておく。そうすればまず人の目には着きにくいし、雪も解けにくい。うまくいけば雪解けまではかくしおおせるからな」
 ロイが不吉に笑いながら、しゃがみこんだ。男の死体が埋まっていたのだというあたりの雪を、手袋をしたまま払っている。もうそこには、当たり前のことだが死体等なく雪をかくばかり。
「・・・てことは。あんたはこれを事件だと思ってんだ」
「君もそう思っているのではないのかね?こんな不自然な凍死があるか?・・・資料を見て、そして今この現場を見て確信した。これは他殺だ」
 一瞬表情をなくし、その夜色の瞳が物騒に光った。何を考えているのか、誰の目にも明らかだろう。これが故意の悪意ならば。
「アルコールは検出されてはいるが、それがなおさら不自然だ。これは死体遺棄だよ。鋼の。殺して、ここへ捨てた」
「・・・外傷がねえよな?ひとつも。資料見たけど、死因は凍死でまちがいねんだろ?体のどこかを縛られたあともないし、殴られたりした傷もねえし。普通の、26歳の男を強制的に凍死させるなんて出来るか?
「身一つで、山に放置とか」
「・・・この雪の中、どうやってそんなとこに連れて行ったんだよ?車はだめ、歩いて担いでいくなんてもっと無理。・・・・ああ、室内かな」
「室内?室内で凍死できるのか?
「凍死ってのは、別に氷点下じゃなくても出来るもんらしいぜ。でもなあ・・・室内ねえ。なんかしっくりこねえな。シャツ一枚で室内に閉じ込めて凍死、か?にしても、もうちょっとあがくんじゃねえかな。ほんとに、傷一個もなかったのかな?
 がりがりと頭をかき、眉を寄せる。全てが不自然で、まるでパズルのピースを無理やり当てはめたように気分が悪い。前科もなく本当に平凡な人生を歩んできた男、その、不自然な凍死。それに続くにかよった事例の数々。それは死の行進のようだ。あとに続けといわんばかりに。
「・・・わかんねえな。凍死か。・・・たとえば、これが他殺だと仮定して。連続殺人だと仮定して。なんで凍死?めっちゃ曖昧じゃねえ?殺意があればもっとこう、ナイフでぐさーとか。銃でばーんとか。いろいろあるだろ?何で凍死?
「・・・・時間をかけるメリットはなんだ?疑われないようにするため?それにしてはリスクが大きいな。誰でもいいなら女子供のほうがやりやすい。あえて若い男である意味がわからない。」
「ううー・・・・。ほんっとわかんねーなー・・・・」
 ぶる、と体を震わせ、両手で自身を抱くようにするといっそう寒さが増した。いつも着込んでいる赤のコートの下にはシャツ一枚とセーターを一枚着込んでいるのだが、何の効果もない。傍らのロイの黒いコートを横目でにらむ。軍から支給されただけあって、防寒仕様になっているらしく暖かそうだった。エドワードにも貸し出されたのだが、到底身長が足りずにあきらめた。子供サイズなどあるわけがなかったし、エドワードは平均的な15歳に比べても身長が低いほうなので。
 その視線に気がついたのか、眉根を寄せ考えるのをやめて、ロイがこちらを見て笑った。
「なんだ、さむいのか」
「うるへえ」
「いじっぱりだな。ほら」
 自分がしていた黒のマフラーを引っ張り出し、ロイは、それをエドワードの首にかけた。さすがに、たった今までしていただけあってそれはぬくもりをそのまま携えている。
 子ども扱いすんじゃねえや、とか。余計なお世話だ、とか。罵声が喉元までこみ上げた。
 が。
 ふわ。と鼻先を、綺麗な匂いがくすぐりエドワードが何か思うよりも先に、それがロイのかおりなのだということを唐突に理解する。
 石鹸とも違う、花とも違う、何か綺麗なかおり。
 ロイの。
 途端に、顔に手足に血が上りエドワードは言葉に詰まった。あんなに冷えていた手足や頬や,鼻の先が急にぽかぽかしはじめてとまらない。マフラーのぬくもりがそのままロイの熱なのだと気がついて、さらに心臓までうるさくなりだした。
(・・・っだ、これっ・・・!)
 くっそ、とまれ!
 真っ赤になっているに違いない。それが、こんな明るい夜では。
(まるで俺が照れてるみたいじゃねえか!)
 マフラーをかけられたくらいで。
(あの女が)
 いったとおりになるみたいで。
「いらねえよ、こんなの!次いくぞ次!!あんた着込みすぎなんだよ!」
 乱暴にマフラーを突っ返し、同時にロイの手から見回り用の地図と資料をひったくる。そのまま背を向け、エドワードが先導する。本当は駆け出したいけれど意志の力で押さえ込む。足早に路地を抜け、小道に入り込む。うしろを、折り目正しい足音がついてくる。何か言っているようだが、振り返る余裕がない。
(くそ。・・・くそ。なんだこれ。なんでだ。なんでこんな)
 雪を蹴散らすように歩いても、腹の中にともった熱がなかなか消えない。
(なにやってんだか・・・)
「鋼の!
「・・っだよ!さっきから!聞こえてるよ!んなでけえ声で・・・っ」
「だから、逆方向だと」
「・・・・・は?」
「逆だ。ほら、地図を。見回りのルートは、さっきの花屋を抜けて南の大通りに出てそこをまっすぐ。今私たちがいるのは、ここの・・・・たぶん北向きの裏路地。わかるか?」
 雪に濡れた手袋が指し示す地図と、現時点を何度も確認すると。
「・・・ほんとだ」
「急に行くから。ああ、でももう温まったようだな。ほっぺが赤い」
 ふに、と頬をつつかれて、ぐあ!と血が上ったようだった。折角おさまりだしてたとこに、なんちゅうことするんだと内心で罵倒する。ロイは、といえば、その感触が痛く気に入ったのかしつこく指先で人のほっぺをつねったりつついたりを繰り返す。その手を振り払うと反対の指で反対の頬をつつかれた。
「こどもかてめえは!気安くさわんじゃねえよ!
「ほかほかだなあ。さすが子供だ。体温が高い。湯気が出ているぞ、鋼の」
「で・て・ね・え・よ!!も、いらねえ!これかえす!」
「いいからしておきなさい。あんまり寒いのを我慢していると身長も伸びんぞ」 あっはっはっはと笑いながらぽんぽんと頭をたたかれる。
「身長のこというんじゃねえよ!あんたに関係ねえだろ!」
 もう一度マフラーを、きつめにくるくると巻かれることが恥ずかしくてしょうがない。みとめよう。無性に恥ずかしい。二人きりでいることをいつも以上に意識してしまう。ロイの熱、ロイの香り。こんなくらい、綺麗な晩に、二人きりで。
「関係なくないさ」
「何でだよ!俺の背が低かろうが、高かろうが、あんたには何にも」
「・・・恋人同士になったときに、犯罪者のような気分になるだろう?」」
 困ったように、笑って。
 ロイの、綺麗な頬に雪はまたひとつはらりと落ちた。すぐに解けて消えて、涙のようにも見える。困った顔をしている。
 何で、あんたが困るんだよ。
 また、何かが喉につっかえたようにとっさに声が出なかった。
これは冗談だ。冗談に、真剣に反応してどうする。
俺は、ここで怒鳴らなくちゃいけないのに。

怒鳴れ。
 なんでもいいから。

じゃないと。

 

じゃないと。
(・・・・・・)
 

「・・・っ・・もが!!」
 怒鳴ろうとした途端、ロイはしっ、と小さく咎めエドワードの口をふさいだ。引きずるように物陰に押し込められ、暴れるけれどロイの視線は遠くを見ている。にらむようなその鋭い視線に不審を覚え、エドワードは抵抗をやめた。そっと手がはずされ、無言で夜の先を促される。
「・・・・なに」
「・・・・みろ」
 一台の、黒塗りの大きな車だ。恐ろしく、のろのろと走る。それも、この雪では仕方がないことのように思えた。ゆっくりと走りながらその車はエドワードたちの目の前を通り過ぎて行く。
「おうぞ」
「・・なんで?」
「おかしくはないか?こんな時間にあんなでかい車がこんな裏路地をひっそりと。それと。識別番号がなかった」
「ナンバープレート?
「・・・・・探られては痛い腹があるらしい。さて、当たりか外れかはわからんが少しは楽しくなってきたようだぞ」
 
 先ほどまでとはまるで別人のような目をして。獲物を前にした肉食獣のような目で笑う。
(ああ)
 あの女と、今ばかりは同類の目をしている。そう思う反面エドワードも内心の高揚を抑えきれない。
 夜は長く、始まったばかりだからだ。