6月
6月
ついてない。とにかくついてない一日だとヤスは思った。女は寝取られ、財布を落とし、入れたばかりの入れ墨は疼いて眠れず、表へ出れば黒猫が横切り、トラックが泥を跳ね、タバコ屋のババアはヤクザに売るタバコはねえと人の目の前でシャッターを閉めやがる。これ以上何が起きようが驚くには値しねえなと、イライラとして兄貴分であるマサからもらったくしゃくしゃのマルボロを噛むように咥えた。
日差しは夏に近いせいだろうか、じりじりと項を焼いてそれさえ苛立たしい。集金に行くからついて来いと言われて、兄貴分であるマサの背中を追って歩くけれど正直に言えばめんどくさいし、だるい。俺が想像したヤクザとはこんな退屈なものだったろうかと、この4月に故郷を飛び出た自分を少しばかり後悔した。地元で暴れているときのほうがよほど楽しかった。高校だけはと母に泣かれて、遊んでいてさえ卒業できると評判の底辺高を、それでもギリギリ卒業したけれど、窮屈さを感じながらも確かに謳歌していたのだ。田舎であるというだけで飛び出した故郷に敵はおらず、町を歩けば皆が怯えてヤスを避けて通った。おもしろくねえと唾を吐きながらそれもどこか小気味よかったことも事実だろう。ヤスの名前を知らぬ者はいなかったし、誰もが暴力と罵声を恐れて言うことを聞いた。けれどその田舎を飛び出したのは、農業を営む実家を下らねえうすぎたねえと思っていたからで、田舎で遊ぶ場所といえばババアの営む寂れたゲーセンかコンビニで、そのコンビニさえ有名なチェーン店ではなかったから夜中の12時には店じまいでおもしろくねえと常々考えていたからだ。
都会に憧れていた。すぐに上京して、雑誌に載っているような有名な組の門を叩いて組員にしてくれと頼んだがいかつい男たちはあきれたような顔をしてヤスを追い返した。いくつかの組を訪れて頼み込むうちに紹介されたのがこの椎名町に古くからあるのだという大きくはない組だ。今あそこは事情があって組員が減ってるからな、おめえみたいなやつでも受け入れてくれるんじゃねえかと言われ、そしてその通りになった。納得は行かなかったが、断られるうちに焦りもあって椎名町を訪れた。はじめはそれでも浮かれていたが、組はどこか薄暗く陰気で、酒タバコ麻薬に女といった華やかな世界ではないのだと思い知らされた。
つまんねえ。
商店街のアーケードを通り抜けて貴金属専門店の親父から負けがこんだ麻雀の掛け金を徴収し、今日は近道すっかといつもは決して通らない裏道をマサが先を行く。湿気た洋品店に、そこそこ可愛い婦警とイガグリ頭の巡査がぼんやりとアイスをかじる交番の前を通り抜けて、種苗屋と蕎麦屋の前を歩く。種苗屋の店先では親の手伝いで店番でもしているのだろうか、おそらく高校生程度の金髪と黒い頭の少年二人が、マンガの週刊誌を抱えて笑いあっている。クソが。そんなにたのしいかよ。自身を比べてみじめな気分を、図らずも味わう。むかつく。むかつく。俺は女も財布もたばこさえ持ってねえのにガキどもが無邪気にはしゃいでやがる。
イライラとした気分のままに店先に並べられた苗の一つを,、タバコを吐き出しながら思いきり蹴飛ばした。
「うるせえぞガキどもっ」
恫喝の声に驚いたのだろう。しん、と場がすぐに静まり返った。ガキどもは一瞬きょとんと目を丸くして押し黙った。と思った。
「・・・・・・・・・・てめえ」
黒い頭の女みたいな顔をしたガキが信じられねえとばかりにマンガの週刊誌を金髪のほうへ押し付けて立ち上がった。
「ああ?なんか文句あんのかコラ。あ?」
いい慣れているあまりすらすらと口から考えもせずに出た威嚇の言葉は、気持ちがいい。こうだろ。ヤクザってのはこういうもんだろ。はしゃいで調子に乗ってるガキどもを痛めつけて、一般市民とやらを怯えさせて何ぼの商売のはずだ。大人しく金を集めて回るだけの回収屋じゃねえんだ。
「なあ兄貴、こいつら調子に乗って、」
同意を求めようと振り返ったヤスが見たのは、頬に刃先の傷跡が残り寝た子を起こして泣かせるような凶悪な顔面の顔色を透明に近いブルーに染めて呆然としているマサだ。
「あ、アニキ?」
「・・・・・・・・・・・てめえ」
「てめえ売りもん蹴飛ばしてんじゃねえぞ?!」
何事かを言おうとしたマサの言葉を遮って、黒い頭の少年がヤスに掴み掛った。奇麗な柄のシャツの襟を掴まれたのは何年振りだろうか。マサの反応をうかがうよりも、その血の気の多そうな小僧の喧嘩を買うほうが先だ。久しぶりに人の顔面を殴れる喜びに、血がたぎった。それがこぎれいな顔をした育ちのよさそうな小僧ならなおさらだ。
「誰に口聞いてんだ、ガキ。殺されてえのか」
「ああ?そりゃてめえのほうだ三下っ、てめえら屑が触っていいもんじゃねんだよ今すぐ苗拾ってきれいに土被せろ、そのあと苗に土下座しろ、てめえみてえな屑より豚の糞のほうがよっぽどマシだ少なくとも肥料になんだからなあ?!」
恐ろしいほど悪態をつかれて瞬時に意味は分からずとも血が上る。殴ろうと拳を固めたヤスの腕に、金髪のほうがしがみついて「ちょっとまって、時間がないから早く逃げて!」と叫んだ。
「逃がすと思うか、ガキどもっ」
「ちが、エレンじゃなくてっ」
「アルミンどいてろ、このクズも挽いて混ぜれば真砂土くれえにはなるかもしれねえっ」
「真砂土なんて痩せたどこにでもある土いらないよっ、いいからエレン、苗なら僕がきれいにしとくからっ」
さりげない毒舌には気が付かなかったが、庇いあうガキ二人が無性に癪に障る。
「舐めてんじゃねえぞガキども、あるみんにえれんだあ?クソみてえな名前つけやがって生意気なんだよ、覚えたからな、てめえらの家友達連れて遊びにいってやっからな?こら、ヤクザバカにすんのもいい加減にしやがっでっ?!」
まとめて殴ろうと力任せに腕を振り上げたヤスの後頭部を思いきり拳骨で振りぬいたのはマサだ。
「あ、アニキ?」
「てめえ自分でなにやってんのかわかってんのか?!」
一瞬気を失っていたらしいマサに怒鳴られて、すぐに引き摺られる。そこへ追い打ちをかけようとしている血の気の多そうな黒い頭の小僧を、金髪の少年が必死に縋りついて押しとどめていた。なぜ止められるのか訳が分からず、ヤスは揺れる後頭部を押さえてマサが続きを言うのを待った。なんだっつうんだ。
「てめえが殴ろうとしたのが誰だかわかってんのかっ」
「は、え、あ?ええと・・・っただのガキじゃねえっすか」
イライラとするのはしょうがない。普段は寡黙で口より先に手が出るマサを恐れていたけれど、たかだか小僧を殴ろうとした、それがどうしたというのだ。まさか一般市民には手はださないなどと温いことを言い出すんじゃねえだろうな?確かに組に入る前にボータイホーとやらの説明を一通り受けたけれど、話半分に聞いていた。殴らず蹴らず脅かさず、ってそりゃヤクザじゃねえだろとヤスは思った。しかしマサの口から出た言葉ははるかに想像を超えていた一言だ。
「ただのガキじゃねえ、種苗屋のガキだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
「てめえ・・・・うちの組に入る前に説明受けただろ、聞いてなかったのか、まさか」
「・・・・・・・・・・・ボータイホーっすか」
「そのあとだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああーええーと」
「・・・・・・・・・・聞いてなかったんだな、てめえ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エート」
「シャレんなってねえぞ・・・・っ」
そういえばなんだかんだと組に入るにあたって注意事項があるんだと言われたような気もするが、小学生かよと真面目には聞いていなかった。カチコミにあったとかなんとかそんな内容だったような気もする。
「・・・・・・・・・なんでしたっけ」
「いいか、時間がねえから簡単に説明する。テツオ知ってるか」
唐突に今はいない組員の名前を出されて面食らう。ほんとになんなんだ。一体。
「知ってます。スンゲー怖い人で、ドスいっつも三本持ってて、両手合わせて指が6本しかねえ・・・・でもあの人なんかいなくなりましたよね?5月くれえに?」
そうだとマサは頷き、「ここの種苗屋はJ○とズブズブで」とやはり訳の分からないことを言い出した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・苗物屋っすから」
そんな政治家と汚職、官僚とヤクザのような薄暗い関係を表現するような言い方をする意味が分からず、アホな顔をして頷くとてめえはわかってねえんだとマサが首を振った。
「テツオはアホだった。よその組から流れてきた奴で、この町の事情をろくに知りもしねえで5月にこの種苗屋の店主からアガリを巻き上げようとしやがった。ショバ代だとかなんとか言って」
種苗屋の店主という男の顔がすぐには思い当たらない。それもそうだろう。この種苗屋の前を通るのは今日が初めてなのだから。「で?」という顔をしていたのだろう。
「でじゃねえぞバカ。7・8年前にうちの組に一人で殴り込みかけてきた奴の話知ってるだろがいくらなんでも。それがここの店主なんだよ!」
聞いたようなそうじゃないような。
「テツオは当然ただじゃすまなかった。あいつがどうなったと思う。なんで突然、組から消えたのか」
心底ぞっとした顔をするマサに、冗談ではないのだとようやくヤスは悟った。うそだろ。たかがこんなしょうもないしょぼい種苗屋の男一人が、ヤクザの男を一人消した?
「テツオさん、どうなったんすか、まさか・・・・・」
「そうだ・・・・・あいつは今・・・・」
「死・・・っ」
「酪農を」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・らくのう」
らくのう、らくのうってなんだっけか。なんだか聞いたことがあるような気がするとヤスは薄っぺらい自身の脳内の辞書を必死に捲った。酪農を一瞬検索したけれどすぐにそんなわけがないと、脳裏から追い出す。
「営んでるんじゃねえぞ、営まされてんだ・・・!あのドス振り回して肩で風切ってたテツオがなんか資格取って6ッポンしかねえ指つかって牛の受精したり乳搾ったりしてんだぞ、情けねえ・・・種苗屋がうちの組員をJ○に横流ししやがんだよ、矯正だ再就職だっつって!前回の殴り込みで何人の組員を○Aに盗られちまったのか考えるだけで俺はもう・・・っ、頼むヤス、これ以上うちの組からJ○職員を排出するわけには行かねえんだ、だからさっさと苗を戻して店番に謝れ!苗物屋の繁忙期で、店主がいねえから安心してここ通った俺がアホだったよ、ちくしょう。まさかこんなことになるなんて。最近じゃ○Aの奴ら6月9月の繁忙期にはうちの組員をあてにしやがって、無理やり入組させられるよりはとオヤジはわけえ奴をJ○に貸し出す始末だっ、組員と組合員じゃ全然意味が違うだろ・・・!」
悲痛な叫びはどこまでもバカバカしく、とてもではないが真に受けることが出来ない。あほくせえとヤスが思うのも無理はなかった。だが残念だったのはそれがどこまでも事実でしかないということだ。違っているのは確かに営まされていた酪農を、意外と向いていたとテツオが愛し始めており、いつかは牧場をと夢見ているという点だろう。二人には知る由もなかったが。
「たかだか苗物屋のおっさん一人にビビってんすか??うっそマジ勘弁してくださいよアニキ、すっげえだっせえっ」
「てめえはしらねえからっ」
もみ合うヤクザ二人は気が付かなかった。身長160センチの小柄な苗物屋の店主が6月の繁忙期で嫌々大量の苗を配達し、いったん休憩を取るために自宅兼店舗へと戻ったことを。
「あっ兵長お帰りなさい・・・・!」
早く逃げてくださいとの祈りを込めたアルミンの不自然な大声に、一人は気が付き怯えてもう一人はさらに血をたぎらせた。振り向いたヤスが見たのは、華奢にも見える細い体で空の苗箱を抱えた目つきの悪い三十路の男だ。
「ああ?なんだこりゃ、ギャグかてめえこの身長、アニキこんなちいせえ奴にカチコミかけられたなんか嘘でしょ?!」
その挑発には答えず、苗物屋の店主は苗箱を放り投げながらアルミンに押さえつけられているエレンの名を呼んだ。
「アレもってこい」
「兵長がやんなくてもオレがっ」
「うるせえエレン、さっさとしろ殺すぞ」
アレってなんだというヤスの疑問は、店舗に走りこんだエレンが手にした青龍刀がキラキラと6月の日差しを弾く段になってすぐに解消された。うそだろ。あれ普通の民家にあって許される代物だろうか。
「うそだろ・・・っ」
「俺のもんに手えだしたな」
「ちょ、ジュートーホーイハンっ、」
しらねえ、おれは知らねえとすでにマサは弟分を生贄に駆けだしている。賢い選択だ。
「警察・・っ、警察!」
「エルヴィンに電話しろ」
人事をつかさどる某農業○同組合総務部長の名前を出して、振り向かずに店主は厳かに哀れなヤクザの身を案じてハラハラと両手を握りしめているアルミンへ命令した。
「一応聞きますけど、なんて・・・・」
「来年の募集人員を一人減らせって言っとけ」
「・・・・・・・・・・兵長、分かってると思いますけど、殺しちゃったら転職できませんからね?大丈夫ですよね??6月の籾まき田植えにはもう間に合いませんけど、9月の米の集荷をするには腕がちゃんと二本必要なんですからね」
「インド人は」
低い声で、頭が残ればいいだろうというような趣旨のことを言おうとする店主にアルミンは必死に首を振った。
「だめですってば兵長・・・・っ米俵はさすがに頭にものを載せ慣れているインドの方々にも運べませんから・・・・!」
「だとよ。よかったな」
なにがと問うことが許されているわけもない。
ヤスは思った。
やっぱり今日はついてねえじゃねえか。
やあやってるねと金髪碧眼の総務部長が普段と打って変わって騒がしい往来へ、ひょっこり顔を出した。
「お久しぶりです、団長」
「新しい人材を横流ししてもらえるんだろうアルミン?どれ、あの子かな」
ぎゃあぎゃあと叫びながら青龍刀の腹でびたんびたんと引っぱたかれ回している若く柄の悪い男はすでに半泣きだ。そんなに珍しい光景でもないので、ご近所は静かなものだ。うわさ好きの向かいの駄菓子屋の98歳の老婆だけが、楽しそうに店先のベンチに腰掛け、引っぱたかれる若い男を眺めてはにこにこしていた。
「イキはよさそうだ」
「別に兵長が出るまでもねえのに!」
ぶっすりと頬を膨らまして椅子の上で胡坐を掻くエレンの横で、アルミンがまあまあとなだめていた。小さいころからこの子たちは変わらんなと少し可笑しく、エルヴィンは二人のつむじを見下ろしながら昔を懐かしんだ。団長と変わらず呼んでくれることもうれしい。変わらないものもあるのだと、エルヴィンの胸をほわりと温めてくれる。リヴァイが大人しくエルヴィンの言うことだけは素直に聞くのを、子供たちは尊敬の眼差しで見つめ、「へいちょーよりえらいんだからえるびんさんはだんちょーですね!」と幼いアルミンに肩書をもらった。幼い子供たちの調査兵団ごっこは可愛らしく、いつまで団長と呼んでくれるのだろうと、いつか来るであろうその日を恐れていることは内緒だ。
「そろそろ止めようか?あれじゃあ体中ぱんぱんで苗箱も洗えない」
「お願いします。苗を蹴飛して、僕ら二人を殴ろうとしたから兵長すっごい怒って。あれ久しぶりに聞きましたよ。あの、『俺のもんに手え出すな』っていう」
はははと笑うアルミンの横で少し頬をエレンが赤らめるのが可愛い。なつかしいセリフだなとエルヴィンも思った。
「お前たちが小さいころはよくそれを聞いたな。高校生にいじめられただの股間を露出する変態がでただの柄の悪い輩に絡まれただの聞いた端からリヴァイが出てって、そうやって相手をボコボコにしたっけ。一番初めに聞いたのは、あれか。夏祭りで」
「そうそう、エレンが迷子になっちゃって誘拐されそうになったんだよね。なつかしいなあ」
それは祭りの季節になると思い出す、この2丁目の町民共通の思い出だろう。
「もう殴るとこがないくらい誘拐犯をボコボコにしちゃって、兵長もすごい形相だし止められなくって、僕あんなに静まり返った夏祭り初めて経験しましたよ、ほんと。でも一番怖かったのは、呼ばれたペトラさんが警察なのにもう殴るとこなんてない誘拐犯をさらにボコボコにしたことですね、あれは怖かったなあ」
「兵長は、別に怖くねえだろ」
ブスくれた顔のままエレンがぽつりと呟いた。当時その場にいたエルヴィンでさえも一瞬近づくことを躊躇うほどだったリヴァイを、エレンがそんな風に言うことがうれしい。ぼんやりと暫く引っぱたかれお母さんと泣きじゃくっている若い男を眺めて沈黙が下りた。
「・・・・・・あいつは子供が好きだから」
それってとんでもない変態じゃないですかという顔でアルミンが俊敏に横にたつエルヴィンを見たので、苦笑して言い添える。
「そうじゃないな、あいつは子供を傷つける大人が嫌いなんだよ。多分お前たちを守るためならリヴァイはなんでもするだろう」
殺すことさえも厭わないとは言わなかった。事実だとしてもそんなことをわざわざ言い添える必要はない。
「だが丸くなったと思うよ。昔のリヴァイならあんなもんじゃなかった。それはお前たちのおかげだと思っている。感謝しているよ」
「・・・・・なんで団長に感謝されないといけないんですか」
エレンは振り向きもせずに、険しい声で毛を逆立てている。ちょっともうエレン、とアルミンが小突くままユラユラと揺れるエレンは、昔からリヴァイへの好意を隠そうとはせずいつもあからさまだ。その直接的な愛情表現を、エルヴィンは素直にうらやましいと思う。この子がいたから、リヴァイは今、こうして生きているのだと何度も思ったことをまた改めて思った。
「私もリヴァイを好きだから」
ぎ、と猫のようなきれいな金の双眸が15才とは思えないたいそうな迫力で睨みつけてくる。
「もちろん、性的な意味ではなく」
澄まして言ったエルヴィンに、独占欲をむき出しにした自覚があるのか、エレンはふいとまた視線を逸らした。耳まで赤いじゃないか。いいなあリヴァイ。やはりおまえはずいぶん愛されているよ。
「就職に困ったらいつでも私のもとへ来たまえ。いつでも我がJ○への入組を歓迎するよ」
「遠慮しときます・・・・・・それじゃ団長に勝てねえし」
「もう。すいません、団長。エレンってばほんと嫉妬深いし、恋に目が眩んじゃって」
「おっまえバラすんじゃねえ・・・っ」
ぎゃあぎゃあと叫ぶ子供二人がさらに通りの喧騒を盛り上げてああ平和だなあとエルヴィンは実感した。
「ところで団長、青龍刀って普通の民家にあってもいいものなんですか?」
長年の疑問をふとアルミンが口にした。
「ああ、あれは模造刀だよ、私が中国土産に買って帰ったんだ、よくできているだろう?」
「どうやって税関通ったのか知りたいんですけど・・・・模造刀にしてもよくできてる」
「えっでもオレあれで兵長が苗の脇芽スッパスッパ切ってんのも研いでるとこも見たことあるけど?」
「えっ」
「えっ?」
「・・・・・・・・・・・・・・それでなんでそんなものを素直にリヴァイに渡すんだ、君は」
「えっ」
平和。平和?と首をふと傾げ、エルヴィンは銃刀法違反かと呟かざるを得ない。
ちょっと止めてくるというエルヴィンの背中を子供が二人、詰めの甘い大人を見送り溜息をついた。