ずっと不思議だった。
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はじめは泣いているのかと思った。
細い肩が、ろうそくの明かりの下で小さく震えていたから。
声をかけることができずに、遠くから漏れる明かりとくぐもった笑い声の響く石造りの廊下の隅っこで背中を丸めている彼を所在もなくただ見ていた。しんと冷えた暗い廊下で、彼はひとり震えていた。
見て見ぬふりをするべきだったのかもしれない。泣いていたとして、こんな15歳の新兵にその姿を見られていると知られるのは嫌に違いない。ユラユラと歪な円に揺れるオレンジの灯りの下で、彼はひとりで背中を丸めている。こんな気まずい場面に遭遇するくらいなら、食事の時間に遅れるのではなかったと後悔したけれど、それも遅い。
クックッと喉の奥でかみ殺している笑いに気が付いたのは暫くたってからだった。
まるでしびれたように動かなかった足がようやく動いて、エレンはほ、と吐息をつく。
彼は泣いていたのではなかった。笑っていたのだ。それも楽しそうに。
「…どうしたんですか、兵長」
からからの喉で話しかけたせいで、その声はみっともなくかすれていたかもしれない。
けれど、エレンが声をかけた途端まるで嘘のようにリヴァイは笑うのをやめ、腰を下ろし背中を丸めたその姿勢のまま、こちらを肩越しに見た。その表情はすでにいつもの彼そのもので、今見ていたものをエレンに疑わせるのに十分なほど無表情だった。
それでも、彼は笑っていたのだ。確かに。
たった一人で。
ふらりとたちあがり、リヴァイはそのまま何も言わずに背中を向けた。ぽつりぽつり、点々と照らされる薄暗い廊下を、振り返りもせずに歩いていく。
その背中を見送ってから、一人の残されたエレンは誘われるように、灯りの漏れる食堂の扉を押した。くぐもっていた笑い声がやわらかい光とともに一際大きく耳に飛び込んできた。廊下の冷気が嘘のような仄温かい空気と腹の空く食べ物のにおい、暖炉の灯り、ぺトラが笑い転げ、オルオの鼻から飛び出たキノコを指さしている。これを見て、兵長は笑っていたんだろうか。一瞬、戸惑う。彼がこんなくだらないことで笑うことも、わざわざ人目を避けて、声を殺して笑うこともまるで彼らしくないと思ったからだ。けれど考え込む余裕もなく、グンタが声をかけてきた。振り返ったエレンが目にしたのは、間抜けな光景だった。
「おい、エレン、これ見ろ、これ」
と、グンタがふざけて鼻にキノコを詰めて真似をすると、エルドがすかさず後頭部を叩いた。グンタの鼻から飛び出たキノコはオルオの頭に乗り、ぷ、と思わずエレンは吹き出してしまう。それを見たオルオに鼻のキノコを投げつけられ、我慢できずにエレンはとうとう笑い転げた。
あたたかなひかりやおいしい食べ物のにおいと、それから笑い声
どうして彼はあの時、一人で
たったひとりで