全然笑えない
落ち着いて聞いてほしいとハンジから切り出された話を俄かには信じられず、リヴァイはとにかく誰かを殺したいと思った。
「・・・・・・あやまろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いや、まって、何かひどいことをしたんだろうなとは思うんだけど何をしたのか、まだ怖くて聞いてなかったね。リヴァイ、正直に答えてほしいんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「エレンに何をしたのか教えてもらってもいいかな?これ、本当に興味本位とかじゃないんだ・・・・残念ながら。私も全然聞きたくないんだけど」
空気に色がついていなくてよかった。向かいあうリヴァイとハンジの間に落ちる重苦しい沈痛な空気に色があるとすればどす黒く濁っていてお互いの顔も見えなかっただろうから。
「・・・・・・・エレンの足、ついてる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・そっかー・・・ついてないか・・・・・」
「馬鹿いえ、足はついてる」
「・・・・・・・・・・・足はって」
「別にどこももいでねえよ」
「・・・・・・・よかった、無くしたものはないんだね!下手な裁縫をちょっと頑張らないといけないのかなって心配したよ!」
一番心配していた手足が少なくとも無事なのだとしって、ハンジの声が明るくなる。けれど目の前の男は固く組んだ両手を口元にあてて、ハンジではないどこか遠くを睨みつけて今にも破裂しそうなほど怒気をまとっている。もういっそ破裂して飛んでってくれたらいいのにと、あまりこういった重い話題が好きではないハンジは適当なことを思った。
「・・・・・・・・・・・・・・・なくなったものもあるな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それって取り返しつく?」
「・・・・・・・・・・・・・つかんな」
「・・・・・・・そっかあ」
何をなくしたのかなんて聞きたくもないハンジは、さらに適当な相槌を打った。どうしてこんな役回りを私がしないといけないんだろう。お前に任せると爽やかに笑ったエルヴィンを恨まずにはいられない。鬱々としながら古城を尋ね、妙にすっきりとした顔をしているリヴァイを捕まえてこの部屋まで強引に連れ出した。エレンが地下室でどういう状態で転がっているのかを先に確認すればよかったのだが、嫌いなものは最後に食べる主義であるハンジにそれは荷が重すぎるというものだろう。部屋に無理やりリヴァイを押し込んで、切り出した真実は非常に辛いものだったけれど、軽く言ったもん勝ちだよねと後先を考えずに事の次第をリヴァイにふんわりと説明した。
ジャン・キルシュタインがエレンにこっそり渡した薬のような包みの中身が小麦粉であること。
ジャンに悪気はなく、ほんの冗談だったことなどを、できるだけ明るく伝えたつもりだ。
無理があったが。
「とりあえずその、ジョンだかピョンだかいう新兵を連れてこい」
「・・・・・誰だい、それ」
「・・・生きたまま連れてこい」
「連れてこれるものならそうしてるけど、ジャン・キルシュタインのことならもう面白いくらいぽっきり心が折れちゃって折れっぱなしのまんま戻らなくなっちゃってるよ。可愛い馬面も年取った馬面になっちゃって」
無理です兵長に謝りに行くくらいなら首をつって死ぬ!と大騒ぎをした新兵の気持ちはわからないでもないが、いっそ死体でも持ってここへ来たほうがよかったのかもと物騒なお土産を用意しなかったことをハンジは悔いた。死体でも見ればある程度この男の溜飲も下がったかもしれない。今からでもいいから取りに行ってこようかなお土産。
「・・・・重いけど細切れにすれば・・・」
「・・・・・・・・・・・・・犯した」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねえ、それどういうタイミング?なんで今それいうの??!ああ、やだ。あーもー・・・・・なんかもう・・・・っエレンが無くしたものって処女かよ!」
「童貞だな」
「・・・・・・・・・・・!!」
言葉にならない悲鳴を押し殺してハンジはとうとうテーブルに倒れこんだ。昨夜冗談で言った、アナルでグルテンが当たらずとも遠からずだったなんて信じたくない。
「もっと悪いよ・・・・・・!!!なんだって15歳の可愛い盛りにこんな小さい三十路と初めてセックス?!おっぱいもついてないのに?!リヴァイ、一回血液調べさせてもらえる??!多分赤くないから!!あやまろう、あやまろうよ、とりあえず話はそれからだよね??!」
「・・・・・・なんで俺が謝らなくちゃならねえんだ」
ギリギリギリとすさまじい歯ぎしりの音が聞こえてこようと関係ない。自らの班員には人でなしだとか巨人馬鹿だとか愛すべき別称で呼ばれるハンジには、けれど悪いことをしたら謝るという常識くらいはある。
「なんでもクソもないでしょう、小麦粉無理やり渡されて、こっそり持ってただけの子の童貞を無理やり奪ったんだよ??!今謝らないでいつ謝るの・・・・っ」
「いやだ。絶対にいやだ。俺は悪くない」
「子供か!」
「・・・・むしろ謝るべきだろう、俺に」
「ばか・・・っもうばかだ・・・・」
「ただでやらせてやったんだ、むしろ礼を言うべきじゃねえのか」
「お金もらったってリヴァイとなんてやりたくないと思うよ?!顔が怖いんだよ威圧感で潰れちゃうよ腹も胸もペタンコの柔らかいとこなんかどこにもないじゃないかどこのだれがリヴァイ見て犯したいなんて思うんだよそんな物好きいないよ・・・!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・殺してえ」
誰をかなんて、知りたくもない。ハンジは思った。
もう泣きたい。
*************
思わず息を詰めて、リヴァイは呻いた。ぬちゅりと厭らしい音を立てて指先が自らの襞の奥に潜り込む。蠢く蕾が、指先では足らないと喘いで誘う。欲望のまま、指先で白い液体を塗りつけるようにぐるりとなぞった。
「・・・・っ、へいちょ・・・ぅ」
子供がごくりと唾を飲み込む音が大きく薄暗い地下室に響く。切なげに寄せられた眉が妙に幼い。
肘で体を起こすエレンの腹の上をまたいで膝立ちになるリヴァイを、潤んだ金の目玉がぼうっと見上げていた。目の前で屹立して涎をこぼすリヴァイのその先端から、目が離せないのだろう。舌なめずりをせんばかりの欲望を抱えて呼吸も荒く、視線をそこに注いでいる。けれど同時に怯えてもいる。それがたまらなくいい。
こわいのにほしい。なんて。
躾けられた犬は待ての命令に従順だ。どんな狂態を目の前にしても、命令に従ってじっと耐えている。ズボンはお互い当の昔に脱ぎ捨てていた。リヴァイが身に着けているのは少し大きめの白いシャツが一枚だ。エレンが少し指を伸ばしてリヴァイの腰をつかんで引き寄せさえすれば、すでに濡れている場所にその膨らんだ性器を押し込むことが出来るのに、そうはせずに、子供は浅く息を逃がしながら真っ赤な顔をして石の床を爪で掻いている。もどかしそうに。
「・・・・そこで・・・・みてろ。さわんじゃねえぞ・・・・?」
いいな、と囁けば命令を理解しているのかしていないのかわからない顔で何度も頷いている。はち切れそうに血管が這うエレンの性器はすでに腹について、糸を引いていた。太ももを何度も繰り返し締め付けるのは、ともすれば破裂しそうになる快楽を耐えているからだろう。いい眺めだった。見下ろしながら、熱くなり始めていた蕾を何度も指で犯す。ぬちゅりぬちゅりとひどい水音が自らの下肢から聞こえてくる。抜き差しを繰り返すうちに、肉の内側はどろどろに蕩けて、たまらなくなる。こんな感覚は知らない。
「・・・・っ、」
かみ殺しきれなかった嬌声がわずかに漏れた。それを聞きとがめたエレンがぴくりと身を揺らす。んう、と声を漏らして、餓えた犬さながらに許しを請う目をしてリヴァイを見上げた。
「・・・・・あ?」
「オレ・・・っ、」
「まだ、だエレン」
「・・・・・・っ」
ドラッグなど使ったことはない。あんなものに頼る奴の気がしれない。正気を失うことほど、リヴァイにとって恐ろしいことはなかった。ドラッグにおぼれた人間の顔は、巨人にすら恐れたことのないリヴァイにとって恐怖そのものの形をしていた。濁った目玉はぎょろぎょろと血走り、忙しない猿のように瞼の内側をぐるぐると走り回る。だらしなく開いた口から臭い涎がブクブクとこぼれ、かつては美しかったはずの兵服の襟をしみだらけにする。何がそんなにうれしいのか、けたたましい笑い声をあげて、ひいひいと檻の内側で爆笑し、そのうちズボンに手を突っ込んで、大勢の上官が視察に訪れたその目の前で、21歳の元新兵はマスを掻いて見せた。ぶちまけた精液の匂いは、思い出すだけで今も鼻の先に漂うように醜悪でおぞましい。こけた頬にかさついた皮膚は、まるで死の床にある老人のよう。兵団の医療施設の一角に設けられた精神病棟に押し込められ、かつては高潔な理想を抱いていた若い兵士を、何人見てきただろう。昨日までは平然としていたのに知らぬ間に蝕まれて、笑いながら巨人の口に飛び込む奴もいる。それがリヴァイが今まで見てきたものの中で最も恐ろしい光景だ。
笑いながら死ぬ。恐怖を忘れて、正気をなくして、小さな頭の中に壁を作って。
だから、このガキが後生大事にそんなものを隠し持っているのを見て、頭に血が上ったのだ。そんな弱い奴だとは思わなかった。同時に、自分がこのガキに僅かなりとはいえ期待していたのだと知らされて、許せないとも思った。こんなガキに期待した自分を一瞬でも許せなかった。こいつは化け物だと思ったのに、しょせんただのガキか。快楽のために使うこともあるとハンジが、エレンの代わりに言い訳をするように言い添えたのだ。巨人と戦うのが怖いとかそんな可愛い性格してるようには見えないし、多分セックスするのに訳も分からずに握らされただけかもしれないよと、リヴァイの怒気に気圧されてこのガキを庇うのに余計腹が立った。足の一本や二本、どうせ生えてくるのだ、もぎ取って口に突っ込むくらいのことはしてやろうと。
(知りません)
(オレはなにも)
エレンの顔が、檻の内側の兵士にそれに重なった。巨人をぶっ殺したいと怖気だつような顔で言い放ったガキの顔が、だらしなく緩んでひいひい笑い転げてマスを掻くだけの生き物にとって変わる。ごめんなさい、二度としませんと大人しくガキはガキさながらに謝れば腕や足で許してやろうと思ったものを。大事に包みを握りしめていながら、なお知らないと嘯くガキには躾が必要なのはいつの時代も変わらない。逆らえばひどい目に合う。そんな単純なことが、どうしてわからない。
ひどいことをしてやろうと思った。
二度と逆らう気が起きなくなるくらい、恐ろしい、ひどいことをして、思い知らせてやろう。
そんなにセックスが、快楽を知りたいというのならば教えてやろう首元に刃を突きつけるようにして。
「仕置きだ、なあ、エレンよ・・・・」
自らの指で犯している場所がひどく熱い。襞が熱を以て膨らんで、指をきゅうきゅうと締め付けているのが分かる。蕩ける様な、味わったことのない快楽に、少しぞっとする。ドラッグを使ってセックスすると正気じゃなくなるほどイイらしいとハンジが言った。確かにそうかもしれない。味わったことのない快楽が、腹の奥でうねり、悶えているのがわかる。粘膜で摂取したそれが、どんな効果をもたらすのか、リヴァイ自身も知らなかった。
「お花畑だ・・・なあ?」
上気した肌に浮いた汗が首筋を伝い、ぽたりと滴った。その雫が、エレンの腹を濡らす。大仰なほど反応した体は、耐えられない快楽に耐えようと小刻みに震えていた。まだ触れてもいないというのにその子供の反応は、大いに嗜虐心を満たしてくれる。たかだか自慰を見せつけられただけで、そんなにイイなら、ドラッグ入りのセックスは子供にとってどんな酷い味がするんだろう。
ぬちゅ、ぬちゅと指の動きを早く、繰り返し蕾を弄る。は、は、とお互いが浅く押し殺した呼吸が、今にも嬌声にとってかわりそうな境目にあった。
「おい、チンポ立てろ」
「は・・・え、・・・・っ?」
「腹についてるそれに手を添えろっつってんだよ・・・早くしろ、クソガキ」
声音が自分でも恐ろしいほど甘い。口調の荒さに見合わず、かすれて艶に濡れている。蕩ける蜜に似て、ゆたりとエレンを絡め取った。肘で体を起こすのをやめて、エレンがそっと背中を床につけた。震える指で、自らの性器に触れ、言われるままに手を添える。吸いつくようなそこから指を引き抜くと背筋に悪寒が走った。抜くだけでイイなんて、たまらない。子供の腫れた性器の先がぱくぱくと口を開いて先走りを滴らせている。そろそろと腰を落として、先端が、たった今まで指をくわえていた場所に触れた。ちゅく、と水音がして、全てをねじ込んで揺さぶりたい衝動にリヴァイは歯を噛んで耐えた。それはエレンも同様だった。歯を食いしばり、顔を背けて、必死に命令を脳裏で繰り返し反芻しているのだろう。
「動く、なよ・・・・」
狭い場所を、先端が割り開いていく。肉の襞が食むのに似て、子供の性器を銜え込んだ。それだけで達してしまいそうなほどだ。性器が脈打つのを、胎内で味わう。その容姿にあまり似合わないエレンの性器は指では辿ることのできなかった場所まで押し広げて、擦り付けられる。
「・・・・・っむり・・・・っ、いく・・・・っおれ、だめです・・・・っへいちょう、だめ・・・っ」
添えた手を離して、エレンが右腕で目元を覆った。深くまで腰を落としてすべてを収めてしまうと、すぐにエレンがびくびくと小さく痙攣して、全身をひきつらせた。爪先が伸びて、そのうちどっと腹の奥で熱いものが滴ったことをリヴァイは知る。
「てめ・・・・っ、動くなって」
「あっ、あっあっ・・・・っ、ひ、・・・・っ、ぁん、う、っ」
恐らく聞こえていないのだろう。断続的な悲鳴を聞かせながら、エレンは仰け反って震えた。濡れた蕾が、ぬるぬるとさらに快楽を煽る。熱に浮かされたように、さらに体をずらして、深く繋がるように腰を揺らすと、ぶちゅりと精液がつながった場所から零れて二人の間を濡らした。
「・・・だれが、いって、いいっつった・・・・?」
言葉が途切れるのは、リヴァイとて限界だからだ。今にも腰を乱暴に揺らして、思うさまむさぼりたい欲に、もう長く耐えられる自信はない。一度達したからと言って、逃がしてやるつもりは毛頭なかった。
なのに。
「・・・っ、や、なんか・・・へん・・・っおれ、また・・・っ、や、あぁ・・・っ」
精液をこぼしながら、エレンのそれは硬いまま膨らんでいる。腹の中で凶悪な圧迫感で、今にも破裂しそうにリヴァイを煽る。
「怖いか・・・」
「へいちょ・・・っ、や、たすけ・・・っ」
自分が縋りつこうとしている男が、そうさせているというのに快楽に翻弄された子供は盲目的に助けてくださいとリヴァイに闇雲に指を伸ばした。その指先を掴んで口づけ、それからエレンの両腕を固く掴んで床に縫いとめた。標本の蝶さながらだ。身動きが取れないエレンの上で、ゆっくりと腰を揺らす。性器を深く銜え込んだまま、ぐりぐりと押し付けて体の中でこすってやると、子供が悲鳴を上げた。ぐじゅぐじゅ音を立てる場所で締め付けると、リヴァイのほうも膨らんだ場所に当たって、たまらなくなる。
「・・・っ、ぁ、・・・・・、あっあっあっあっ、・・・・・っ、あ、や・・・っ」
「にどと、こんなもんに手ぇだすんじゃねえぞ・・・」
「ひ、あっやめ・・・・っ、またいく・・・っあっあっあ、あ、でる、っ、」
想像もつかないほど淫らに緩んだ顔で、エレンが涎を零し喘いだ。その頬をぞろりと獣さながら舌でなぞり、リヴァイは自身も達しそうになるのを焦らすリズムで腰を揺らす。
「・・・・っ、正気をなくすっつうのがどういうことか」
「あっ、あ、や、い、く・・・・っ」
「十分に、味わえ」
限界に近いのはリヴァイも同様だった。もっとほしい。もっとなかに。揺さぶって、突いて、犯して、味わいたい。中を濡らす精液のぬめりに一層煽られる。たった15のガキに体の奥深くを犯されて、精液をぶちまけられているという背徳感、ドラッグが相乗させる快楽、化け物のような心を持った男を服従させているという充足、すべてが、気が狂うほど気持ちいい。
「・・・っ」
膝で腰を上下させる。抜くだけでひどく切ない。先端近くまで引き摺りだし、そして腰を落とす。何度も繰り返すうちに言葉が消え、ただ肉をぶつける鈍い音と水音だけが満ちた。は、は、と何度も浅く呼吸を逃がして、リヴァイはただ行為に夢中になる。
「・・・っ」
短い嬌声とともに、体が痙攣した。触れもしなかった自らの性器からびゅくりとこぼれた精液が、エレンの腹に散る。それでも腰を振ることをやめられない。
「・・・・エレン、」
短く名を呼んだ。ただそれだけなのに。
「・・・・っ、だめ、あ、く、・・・・も、我慢できね・・・・っ」
短い宣言とともに、エレンが掴まれていた腕を振り払い、揺れるリヴァイの肩を掴んだ。気が付いた時には抱えられて、真逆へ押し倒されていた。
「て、め・・・っ」
「・・・・・・兵長、兵長・・・っ」
押し広げられた太ももを子供の、けれど節ばった男の手で押さえつけられる。足の間を、ただ若い余裕のないリズムでエレンが何度も犯す。
「ふ、・・・っ、・・・っ、ぁ・・・っ」
「おれもう、だめ、いき、ます・・・っ」
「・・・・・ひ、・・・っ」
強く打ちつけられた後、ぎゅう、と深く深くへと性器が差し込まれた。びくびくと痙攣して、リヴァイが自分を犯す子供の背中にしがみついた。もっと深く、と多分二人が同じほど欲して。
正気をなくす、という意味では確かに効いたのだ。
名前も知らない、その白い薬が。
***************
嫌だけどエレンの様子見てくるからと言い置いて、ハンジが部屋を出て行った。好きにしろ。どうせあのクソガキはシーツに包まって、ぼうっと寝転がっている。
小麦粉だと?
あれが?
あんなふうに、なるのが。
「・・・・・・・・・クソが」
リヴァイは反省するということがあまりない。後悔もしない。自らの決断は、自らにとって絶対であり、間違っているだとかそんな余人の判断なぞ必要としないからだ。誰がどう思おうと関係なかった。それなのに、今度ばかりはどっと押し寄せる後悔のようなものが頭を占領して離れようとしない。
熱に浮かされたような子供に、どうしてあの包みを捨てなかったのかと聞くと、うわ言のように、父が医者でと小さな郷愁を聞かせた。その時ですら、それでも持ってたこいつが悪いと少しの後悔もなかった。けれどそもそもドラッグですらなかったとなると、話が全く違ってくる。真実お花畑だと思ったあのセックスが、何の影響も受けたわけではない、ただの二人の間でもたらされた快楽なのだと知らされて惑わずにはいられない。かわいい、なんて思ったのも薬で溶かされた脳が感じた幻覚なのだと、そう思いたかった。かわいいなどという単語を生まれてこのかた口から出したことさえないのだ。知っていただけでも奇跡だと思ってほしい。発音さえわからない。
「・・・・・・・殺してえな」
自分を殺したいのだと、口が裂けても誰かに告げる様な愚かなまねはしないが、両手を固く組み、額に押し当てながら、かなうことなら昨夜の自分を殺したい。
これでは、言い訳もできない。
そんな考え方が自分の身の内の一端にあることすら腹立たしい。それでも言い逃れできない現実が重苦しく両肩に伸し掛かった。
「全然わらえねえ・・・」
そもそも笑いもしない自分を棚に上げて、リヴァイはよし、とりあえずジョンだかピョンだかいうガキから血祭だと考えることを放棄して決心した。
あんな、あんなにも脳をとろかすような快楽が、ドラッグもなしにあのクソガキと寝るだけで得られるなんてそんなこと、知りたくない。今はまだ。
めんどくせえと呟いて、リヴァイは机に頬を寄せて寝そべった。夜をどこか心待ちにしている自分を知りながら、目をそらす。
「全然笑えねえぞ・・・」
恐ろしいとおもうどころか、ドラッグってすごい気持ちいいんだとエレンが地下室で一人考えていることも知らず、リヴァイはそのうち聞こえてくるであろうハンジの罵声を想像して目を閉じた。腰が立たなくなるまでやるなんてどうかしてると、自分でも思っているのだから始末が悪い。
とりあえず、ジャン・キルシュタイン。
お前は死ね。