「それじゃあ出席をとる。出席番号1番、ミーシャ」
「はーい」
「2番、ジェームス」
「うい」
「69番、エドワード」
「はーい・・・・・って返事するとでもおもってんのかぁア!!!」
生きたバタフライナイフと異名をとるエドワードの怒声に、小柄な一社会教師であるフュリーはあからさまに縮こまった。
「え、エドワード君、あのね、」
「あのねもそのねも木の根ももういいとにかく御託はたくさんだから、とりあえずあのドクズ呼べ」
「あ、あいつって・・・」
「ロイ・マスタングに決まってんだろが・・・・!!朝登校してみりゃ靴箱に69番、教科書に69番、出席番号69番、何が出席番号69番だそもそもこのクラスにどこにそんな人数がいるつうんだいってみろこのメガネっ子っ」
「め、めがねっこって・・・・」
クラスメイトの大半が哀れみの目を、机に足をかけてやくざそのものの姿でがなるエドワードに向けていた。この見目麗しい少年が常日頃からひどいセクハラにさらされているのを知っていたので。かといって口を出して、なぜか先月北極へ父親の転勤が決まったクラス委員の・・・いや、元クラス委員のルーパートの二の舞はごめんだった。
「あいつほんっとなんなんだ。何で俺にこんな嫌がらせすんの?出席番号69番にして何がうれしいんだ。意味わかんねえし!こないだは深夜三時にオレの右足の型とっていきゃあがって、寝不足で朝迎えて玄関出たすぐそこで顔の型とられて、筆箱あけたらシャーペンの数が一本足りねえしトイレにはいりゃあ警備員がトイレからほかの生徒を追い出すし、昼休みにあのドクズに呼び出されたかと思えば重箱につめた緑の粘液にまみれた米と漆黒の卵焼き広げて自慢げに『遠慮するな』だ・・・!」
想像していたよりも遥かにひどいセクハラというより嫌がらせの数々に、クラスメイトが目頭をあつくする。教室のそこかしこから聞こえるすすり泣きに「うるせえ!」と生きたバタフライナイフが一喝した。
「母さんに相談したら精神科に連れて行かれるし!」
「ううっ・・・」
「下駄箱につっこまれたピンクの封筒は一日平均10通」
「わ、わかった・・わかったよ、エドワード君。僕も教師なんだ。教師だってことを忘れかけていた。いかに上司だからって、彼のいうことをなんでも聞くなんて間違っているよね」
「おうよ」
「でも、じゃあこの69番を改定するにあたって、一言録音させてもらってもかまわないだろうか」
?と顔面いっぱいにクエスチョンマークを浮かべるエドワードをよそに、フュリーはめがねの奥の涙をぬぐいつつ、教台の下から仰々しいカメラを取り出す。巨大な三脚の上に、テレビ局などで使用されるような値のはる高性能のそれが、エドワードをしっかり捕らえていた。
「は?」
「いいから。一言でいい。『69』と」
「は?え?な、なんで?」
「いいから。そうすれば終わるんだ。さあ早く」
「な、なに・・・」
「早く!!」
「・・・わーったよ・・・何だよ意味わかんねえ。『69』!!これでいいか?」
クラスメイトがいっせいに顔を伏せた。年のわりに性的な知識の乏しいエドワードは、69という言葉が示す性行為の体位など、知る由もない。本人が気づかないうちに受けるセクハラのすさまじさに、クラスメイトは泣いた。そして同時に「オレじゃなくてよかった」と安堵したのは言うまでもない。
「ありがとう・・・ありがとうエドワード君・・・これで僕の大事なジュリーが帰ってくるよ」
ジュリーとはフュリーの飼っている犬の名だ。
その様子を隠しカメラで見、ロイは手元で気持ちよさそうに伸びをする犬を撫でながら、よくやったフュリーと新しい夜のおかずを手に入れた部下を口に出さずに褒め称えた。