2 学ラン




「ミスは絶対に許されない。わかるな?」
 ごく、と息を呑み、ジャン・ハボックは小さくうなずいた。指の先をぴしりとそろえて、「イエッサー」と答える。男は、ただ上司というだけではない。今後のハボックの人生の先を握り締めているといって過言ではないのだ。
「確かにリスクはでかいが、成功報酬を考えれば安いものだ。そうは思わんか?」
「ですけど、大佐、ばれたら、」
「ばれたらなどという想像をすること事態間違っている。この作戦は、あくまでも成功することが前提で実行されるのだ。この作戦をブレダに考えさせて半年、実行に移す準備に二ヶ月。失敗するはずが無い。お前は綿密に練られた計画の歯車のひとつであるという認識があるのか?リスクに見合うだけの報酬のことでも考えて、さっさといって来い。猫でもできる簡単な仕事だ。アレは危険な薬物だからな。ひとたび吸い込めば、鼻腔を抜けて、脳に快楽をもたらす。あんな危険なものが、この学園にのさばっていていいのか?いや、断じていかん。そうだろう?」
「・・・・・イエッサー」
「それからお前な、軍時代の肩書きで私を呼ぶのはそろそろやめろ。あくまで私はこの学園の一理事だ。お前は一教師。わかったな。特別な関係を匂わせては今後動きづらくなる。マスタング理事とよべ」
「へーい」
「なんだその返事は」
「イエッサー」
「いけ。いってさっさと済ませて来い」
 ハボックは渡された、NASAの開発したという道具一式を手に、もう一度敬礼をした。




 教室には人気が無い。隣も、その隣もだ。ロイの手回しにより、人払いしてあるというのは事実なのだろう。彼にとって、それは造作も無かったはずだ。ある机に近寄り、ハボックはギュウ、と手術用のゴム手袋を嵌めた。机の上にきれいにたたまれた衣類一式を、ピンセットでつまみ、丁寧に透明な袋の中に詰める。詰めて、袋の下部に着いたボタンを押すと、一瞬にして圧縮され、袋の中は真空状態になった。傍らのスーツケースから、先ほど袋につめた衣類と、ほつれから名前のにじみ、小さな染み汚れにいたるまで忠実に再現された全く同じ衣類を取り出し、机の上に置く。終わった。終わったんだ。これで、オレにも彼女ができるんだと、変態の片棒を担いだ認識のあるハボックは、それだけを心の支えにここまでがんばってきた。たしかにロイは変態だが、うそはつかない。「お前一人対女20人の合コンをひらいてやろう」といったあの言葉はうそではないはずだ。
 終わったんだ。さあ、これを持ち帰って、ロイに渡せば、

「ハボック先生、なにしてるんですか・・・・・?」

 ロイに、渡せば・・・・・・・・
「いや、ちが、あの、あのな、これは」
 マスクをして、手にはゴム手袋、頭には三角巾といういでたちもさることながら、なにより男子生徒の制服を袋に詰めてしっかと握り締めているのが良くなかった。風邪で体育を一人休んだ女生徒は、立ち尽くし、あらん限りの声で「変態」と絶叫した。いや違うんだ、変態はオレじゃなくてエドワードエルリックをストーキングしている上司なんだ、と言い訳する暇も無い。

 さわやかでユーモアのある国語教師は、その日から「ホモの制服マニア」というありがたくないあだ名を拝命した。








 やっぱりパラレルです。すいません。ていうかふつうにハボがかわいそう。
まあタイトルでオチがまるわかりっていうかだだ漏れっていうか、ロイロイはエドの制服でなにするんだろうなっていう。NASAがそんなもの開発してるかどうかはしりませんが、ロイロイのお手製じゃないかなあ・・・収集セットみたいなの。