5    自慰



「君は健康食品のCMをみたことがあるかね」
 ご大層に机の上で両手を組み、ロイ・マスタングはそう言い放った。鼻でもほじったろかと胡乱な視線でロイを見返し、エドワードは「はあ」と気の無い返事をした。
「あれはひどいな。幸せそうな老夫婦が手をつないで、いかに自分たちがこれまで幸福な人生を歩んできたのかを語る。そしてある日突然訪れた、病魔に蝕まれた苦悩と恐怖の日々。そして奇跡的に命を得て、健康とはいかにすばらしいものであるかに気がついたという。ドキュメンタリーを装った、ひどい番組だよ。いかにして、健康を維持するべきか。忙しい毎日に、気軽に行える健康法、そう!奇跡のブルースープ!ミラクルグリーンジュース○汁です!月々2890円、とこうだ」
「・・・・・・オレ帰っていいか?」
「君はバカか。これからがいいところだ黙ってきいていたまえ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オレの気持ちに見合う罵倒の言葉が見当たらない」
「ではなおさら黙っていたまえ、エドワード・エルリック。私は思うのだがね、健康食品とはなんだ。健康が尊いということくらい、私だってわかっている。命は尊い。健康は尊い。だが、巷に氾濫する情報のすべてが曖昧で中途半端だ。癌を乗り越えた夫婦の絆、苦悩、恐怖、そんなものを高々一月2980円でどうにかしてもいいのか。一月2980円で、そのすべてが無かったことになるのか。いや、ならない。気休めでしかない。もう一度あの恐怖を味わうことが無いようにと藁にもすがる思いの人々を脅しているに過ぎない。『これさえ飲んでおけばあんな怖い目にあわなくてもすむのだよ』と、これはある意味脅迫だね。ひどく悪質だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」
 オレは一体全体なんだってこんなとこで、学校理事という名のストーカーの健康食品論を聞かねばいかんのだとエドワードが拳を握ったとして仕方が無い話だ。中学生にとって、放課後がいかに大事な時間なのかをこのおっさんはわかっていない。いや、かつてはこの変態も中学生だったはずなのに、わすれてしまったのだろう。同情すら禁じえない。中学生男子といえば、頭の中の半分が女体への好奇心でできていることも忘れて、この自分に狂気じみたアプローチを繰り返しているのだから。このおっさんは、なんでオレなんか好きなんだろうなーとぼんやり思いながら窓の外など眺めていると、いつの間にかいよいよ演説は佳境に入ってきたらしい。
「・・・・・・なあパンツか靴下でよかったらやるからさ、もう帰ってもいいかな」
「であるからして・・・・・・・・今なんていった?ぱ・・・や、いやいやいやいやい!や!これからがいいところだ!黙って聞いていたまえ・・っ」
 なんか必死だなおっさん、と哀れに思うエドワードは、基本的には心根の優しい少年だった。
「健康食品を愛用していたから助かる、助からない、そういう次元の問題ではないだろう。この国の高齢者ランキングの上から100番までの老人に聞いてみるがいい。それぞれ100通りの健康法を教えてくれるだろうよ。ソレをさも、『これさえ愛用していれば大丈夫』とでもいいたげに。実にばかばかしい。明日交通事故で死ぬかもしれない。一生病気になどならずに天寿を全うして老衰で死ぬかもしれない。自分がどういう死をむかえるのか、わかっているとでもいうのならば別だがね。だが、そんなものが一介の健康食品会社にわかるものか。人の運命を一律に決め付けてしまっていいのか。健康食品なんてそんなものはね、気休めだよ。ごまかしだ。幻想だ。効果の薄い覚せい剤だ!」
「・・・・・・わかったから、要点をさっさといえ・・・・!」
 心根の優しい少年ではあるが、それ以前に少年は短気だった。
「君は本当に短気だな・・・まあいい。要するに、私が言わんとしていることはだな、」
 一息ついて、ロイは淡々とこの長たらしい演説の結論を口にした。
「君のマスターベーションに、本当にあの巨乳ポルノ雑誌は必要なのかと」」
「ななななななななななななんで知ってんだてめえええええええええええっ」
「いやだからね、君にあんな卑猥で下品で低脳な雑誌が果たして必要なのか、ときいているんだがね。やたらと胸を強調して女豹のポーズを取る、ブラのサイズのなさそうな、肩の凝りそうな、そんな目に優しくない雑誌の必要性を、よかったら私に教えてくれないか」
「てめえ盗撮してやがんな・・・・・・っ」
「君のあの雑誌は本当に健康食品のようなものだよ。いつ訪れるともしれない、いやいっそ、こないかもしれないそのときのために備えるなど、本当にばかばかしい限りだ。交通事故でぽっくりいくかもしれないじゃないか。そんな無駄な行為はやめたまえ。心配しなくても、君に巨乳美女とイタしてしまうような事態は決して起こらないから安心したまえ」
「なんでそんなこといいきれんだ、クズ!変態!」
「君と私が、結ばれる運命にあるからだよ・・・」
 反吐がでそうなうっとりとした表情を浮かべて、ロイは潤んだ相貌でエドワードを見つめた。だめだ、こいつイっちゃってる
、と、ロイの腹心であるリザ・ホークアイもしばしば覚える感想を、エドワードも心の中で呟いた。エドワードはため息を一つつき、
「・・・・・・・・じゃあ、オレも一ついっといてやる」
「なんだね?」
「オレの盗撮ビデオで、何を妄想してぬいてんのかしらねえけど、そんな日はこねえから心配すんな」
「・・・・・マホカンタ!」
 汚物をみるような目でロイをみて、エドワードは「何?」と聞き返す。
「・・・・・君はドラクエはしないのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・そうか・・・」
 もういってよし、と視線をそらしたロイの瞳にたまる涙に嘔吐しそうになりながら、エドワードはそれでも理性の力で頭を一つ下げて、帰路についた。









 
ロイロイが何を言ってるのか私もわからない・・・すいません。5が楽しみだ楽しみだとメッセージをいろいろいただくあまり、なんかもうメダパニ!!