10   幼馴染






 『ごろりと寝転んだエドワードの顔が不意に翳った。眠気に逆らいながら、エドワードは瞼をわずかに押し上げる。目を細め、覗き込んだ男を確認して、かすかに笑った。
「ロイ」
「やあ。昼寝?」
「おまえ、いっくら隣だからって勝手に入ってくんじゃねーよ」
 丁寧に靴を脱いで、新聞紙の上におく、幼馴染の几帳面さに笑ってしまう。靴なんか別に、そこらに放ればいいのに。エドワードはごろりと寝転がったまま、ロイのブレザーのズボンのすそを引っ張る。振り払うようなまねはせずに、ロイはおとなしくエドワードの枕元に座った。
「今日早いじゃん。生徒会は?」
 どうして同い年で同じ場所で同じ環境で育ったのにこうも出来がちがうのかと、常日頃から母が愚痴るのは、あながち間違いではない。同い年にしては大人びているロイは、まるで自分と出来が違った。なにをそんなにすることがあるんだろう、というほど忙しくしているロイが、こんな時間に学校から帰ってこれるなんて珍しい。ちらりと時計を見ると、ちょうど16時。道理で腹が減ったと思った。
「最近、エドの顔を見てないような気がして」
 ロイは笑い、あっさり秘密を教えてくれた。俺の顔が見たかったのかよ、とからかう様な軽口がとっさにでてはこず、エドワードは寝返りで誤魔化す。くそ。かわいい顔すんじゃねえよ。ちらりと視線をやると、ロイは穏やかに笑っていた。小さい頭を、その漆黒の髪がいっそう小さく見せている。女みてえ、とエドワードは口中で呟く。華奢な体に、ブレザーの袖は少し長めだったらしい。手の甲がちょこんとでてみえるのがかわいらしかった。肌はしみひとつなく白皙で、切れ長の目にはまつげがばさばさ。
「・・・・・・なに?」
 見つめすぎたのを悟られたのか、ロイが笑う。なんでもねーよとそっぽを向く、エドワードのシャツの裾を引いて、教えて、とロイが追いすがった。
「・・・・・・なんでもねえって」
「嘘。エド、最近なんか視線合わせてくれないね。どうして?」
「だから・・・・それは・・・・・」
「エド?」
「・・・・・・・・・・・おまえ、わざと言ってねえか」
「何を?」
「あーも・・・・お前ほんと天然。こっちこいよ」
 エドワードの欲望に無垢な顔をして気づかないでいるロイがもどかしくなり、腕を思い切り引く。華奢な体はあっさりとエドワードの腕の中に納まった。
「え、」
「・・・・・・枕。枕になれ」
「なんだ、・・・・・・・・・ちょっとドキドキした」
 腕の中でくすくすと笑うロイが、本当に何の計算もないのか疑ってしまうエドワードは大概スレていた。
「お前、ちょっと黙っとけ」
 ぐい、と小さな顎をつかんで、エドワードはそろりと口付けた。はじめはそっと、次に強く。やべえとまらねえ、と手を出してしまったことに後悔しながらも、一度味わった蜜が余りに甘く、エドワードは欲望を押しとどめることが出来ない。
「エ、エドッ・・・」
 囁くようなかわいらしい抵抗にあおられているような気すらして、エドワードはロイのブレザーのシャツの中に指をしのばせる。バカ、人の気もしらねえでかわいいことばっか言うから。
「いやならオレを突き飛ばせよ」
 そうは出来ないことをしりながら、せいぜいえらそうに言うと、体の下からロイが顔を真っ赤にして睨む。
「・・・・・・・・意地が、悪い」
「へえそう?どこが?」
「おんなじこと、したいのに。エドは意地が悪い」
「・・・・・・・へえ、そう」
 クスクス笑いエドワードは、』








「って、何なんだこれ・・・・っ」
 とエドワードは全身にサブイボを立てながら、ロイ・マスタングに渡された妄想テキストを床にたたきつけ、靴で踏みにじりおぞましいとばかりにペッペッと唾を吐いた。
「・・・・・・・・・・そこまで嫌がらなくても」
「うるせええええええっ!!!いい年したオッサンがキメエ小話かいてよこすんじゃねえよ、死ねクズ!クズは死ね!きめーんだよ、なんだよこの幼馴染設定どこのギャルゲだ死ねクズ!きめえええええええてめえのこと華奢だとか白皙だとかどんなロリキャラに脳内変換してんだとにかくクズ!お前はクズだ!!!!!」
「いや、こういう出会い方もわれわれにはあったかもしれないなという、可能性の提示だよ。エドワードエルリック。あと、大人に向かってクズはやめなさい」
「ひいいいいいいきもいいいいいいいいいい」
「・・・・・・・・そんんっなに嫌かね?」
「よるなあああああああっサブイボがあああああああああああああああ」
「そんなに・・・・?」
 おかしいなあなかなかよくかけたと思ったんだがと首をかしげる29歳の中年をおぞましいものを見るような目でみて、エドワードは後ずさる。こんなやつの呼び出しに応じた自分がバカだった。本当の幼馴染である、ウィンリィを思い出して、エドワードはこの変態が幼馴染でなくて、本当によかったと生まれて初めて、神に感謝した。
「でもネットで公開したら、続きが読みたいとメールが、」
「うわああああああああああああ」
 
 




ほんとにきめいーーー
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