1 兄弟(義兄弟)
「こんにちは」
ロイマスタングと名乗った男はエルリック家の玄関に鎮座ましまして、中学から帰宅したアルフォンス・エルリックを迎えた。手にした書籍がばらばらと落下する。110番か119番か一瞬迷い、アルフォンスが、ああやはり119番だ、とりあえず殴ろうと拳を固めた次の瞬間、男はにこりと笑った。
「私のことはお義兄さんと呼んでもらってかまわない」
かまわず殴ろうと拳を固めるアルフォンスに、男はさらなる衝撃発言を繰り返した。
「よって君のお兄さんの名前は、エドワード・マスタングになるんだ。僕と君のお兄さんが、結婚するんだからね」
あまりの語呂の悪さに思考が停止してしまい、アルフォンスは一瞬話の論点を見失う。しかし、エドワード・マスタング、と口中で呟いてみて、ようやく到底理解できないロイの発言の意図を知る。
「・・・・・結婚?」
「そう」
「誰と誰?」
「私と君のお兄さんだ」
「・・・・・・・家をお間違いでは?うちにいるのは、口より足が先に出る身長150cm(推定)の生きる火炎瓶と近所で評判のエドワードエルリック一人ですけど」
「そうだ、その火炎瓶と結婚するんだよ」
「・・・・・・あなた、すごいマゾヒストなんですか?殴られて気持ちいいタイプ?」
「・・・・・申し訳ないがアルフォンス、私はそういうタイプに見えるだろうか」
「そうですね、少なくとも、頭がまともじゃないことだけはわかります。お引取りを。110番と119番とどちらがいいですか?それとも最寄の精神科をご紹介しましょうか?」
「・・・・・・・・・・・いや、だから、」
「どこから突っ込んだらいいのかわからないんですけど、15歳では結婚年齢に達していませんし、エドワードエルリックはとりあえず、うちの『兄』なので」
「いやいや、だから、」
ええい面倒だ、とりあえず殴ってしまえとアルフォンスは拳を振り上げた。
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ただいまあと学校から帰った兄の、いつもと同じ声が聞こえて、アルフォンスはほっと一息ついた。ほら、なんのかわりもない。いつもどおりの兄、いつもどおりの生活。唯一つ違ったのは、今日は変質者が入り込んだということだけだ。受話器を取り、アルフォンスは三つの数字をチョイスしてボタンを押した。
「ただいまあアルー。すっげー腹減ったぁ・・・・・って、・・・それ、どちらさま?」
ソレ、扱いしておいてどちら様も何もないが、エドワードは指を刺すのだけは堪えて、首をかしげた。
ほらみたことか。兄は知らないではないか。足元で伸びている男を一瞥して、アルフォンスはにこりと笑った。
「ううん。知らない人。ちょっとまってね兄さん。おやつすぐ用意するから」
「サンキュー。あ、ところでさ、アル、ロイたずねてこなかった?あいつバカだからさー『まず君の大事なご家族に挨拶しないと』とか何とかいってさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「だから、ロイだよロイ。オレの彼氏。しらね?」
「・・・・・う、うん・・・」
ちら、と視線をもう一度足元の男にやる。顔面がぼこぼこで、確かに見る影は無い。
「・・・・・その、ロイ何とかって言う人、なに?彼氏?彼氏ってどういう意味?」
「だからつきあってんの。オレ、お前に言ったことあんだろ?」
ゴキュゴキュと喉を鳴らし、兄はオレンジジュースを飲み干しながら言った。
「今度、オレ結婚するから」
ニコ!と満面の笑みで笑う兄に、やはりどこから突っ込んでいいのかわからず、アルフォンスは夢ならば早くさめてくれと受話器を置き、ホッペタをつねった。
テーマは奥様は女子高生!みたいな感じで、パラレルです。でもアルアルは受話器を置かずに、救急車を呼んであげてほしいです。