ぼくたちわたしたちのこころとからだ〜正しい性知識〜











『十代の正しい性知識』
『おかあさん、あいってなあに』
『家庭で教える性教育』
『絵本で知る愛と性』
『からだのひみつ〜男の子編〜』
『おかあさんをこまらせない、おちんちんのはなし』
『フュリー写真集』
 目の前にいきなりばしんとたたきつけられた書籍のタイトルを横目でちらりと確認して、ロイマスタングはため息をついた。
「お前、私にセクハラする暇があったらもうちょっと働いたらどうだ?パンツがみたけりゃみせてやるから」
「・・・・・だれがアンタのパンツなんかみたいっていいましたか。違いますよ、これはですね」
 最後に置かれたどうみても手作りの、ある曹長の写真ばかりを集めた冊子を手に取り、ロイはほう、と意地悪げに片眉を上げ、ハボックをにらんだ。
「あわわわ、間違えた・・・!こ、これはいいんですこれは!」
 慌ててそれをひったくり、ハボックが背中に隠す。
「・・・・お前は生物的には成功しているんだが、中身が失敗しているな。ご両親もさぞ無念だろう」
「人の親を亡くなったみたいに言うのはやめてください」
「まあそう、ひとをおちょくるな。不敬罪で降格にするぞ」
「どっちがおちょくってんですか。大将ですよ、大将!」
 鋼の錬金術師こと、エドワードエルリックは昨日東方へ戻ってきたばかりだ。書類の提出は既に済み、後は簡単な手続きと次の指令を待つ身分だから気楽なものだ。あの大きな鎧の弟を従えて、食堂や図書館できゃあきゃあと無駄話に花を咲かせているのを何度かロイも見かけていた。
「あの小僧がどうしたと?」
 そんなものにかかずらわっている暇はないことくらい、この部下こそよくわかっているだろうに。
「この恥ずかしい本とどういう関係が?・・・・しかし恥ずかしいな。無修正のポルノよりよほど恥ずかしいぞ。おまえ、さては変態だな?」
「だからちょっと、人の話を聞いてくださいってば。アンタ働くのに疲れたからって人で憂さ晴らしせんでください」
「そのくらいにしかお前は役に立たん。ストレス解消にはお前かフュリーに限るからな。それで、なんだ。鋼のが赤ちゃんはキャベツ畑で収穫できるとでもいったのか。それともコウノトリが宅配してくれる?」
 頬杖をついて、ロイは失敗した書類を紙飛行機にして飛ばした。上手く屑篭には入らないが、ストックはありあまっている。何度も飛ばすうちに、ハボックが厳かに告げた。
「当たらずとも遠からずなんス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?おまえ冗談を言うならもうちょっと上手くいえ。つまらん」
「気持はわかりますが、本当です。いいですか。『でも不思議だよな。なんで男と女が一緒に寝てたら赤ちゃんできるんだろうな?』・・・・恐ろしいことに一字一句間違いなく、大将が」
 さも恐ろしいことを告げるように、ハボックが声を潜めた。ロイは驚愕して、うろたえながら、ばしんと一つ机を叩く。
「・・・・・バカな!」
「・・・・・・・・・でしょう。怖いでしょう。大将が今いくつだと思います?」
「やめろ、聞きたくない・・・・」
「15歳。来年は16ですよ」
「ううう・・・・冗談だろう?冗談だと言ってくれ、ハボック」
「冗談ならよかったんスけど。残念ながら真実なんです。アイツあの年で、・・・・ああっ、口にだせねえ!」
「精通もまだなんじゃないのか」
「あっ、言った」
「しらん。知らんぞ、私は。何も聞いてないし知らない。お前、なんで私のところにもってくるんだ。お前が教えてやればいいだろうが」
 両耳を塞いで必死に机にしがみつく大人気ない上司の両手を引き剥がして、ハボックはなおも書籍を押し付ける。ここで逃げられてたまるかとばかり、ハボックも必死だった。これ以上はないくらいに必死だ。当たり前だ。
「いやですよ、オレ!あんな純粋な大将に性教育なんか、絶対!オレらには荷が重いってことで既に可決してるんス!諦めて、大将に現実をおしえてやってくださいよ!このままじゃ、大変なことになりますよ!」
「どこの会議で決まったんだそれは!言え!私が行って、解散させてやる・・・!」
「アンタそういうのすきそうじゃないっすか!かわいい女の子に突然下腹部みせるみたいな。お願いしますよ、頼れるのは大佐だけなんですから・・・!だってこのままじゃ大将は一人上手もできないまま錬金術バカとして一生を終えるかもしれないんすよ?!オレは同じ男として、みすごせねえー!」
「いちいち大げさなんだお前は!放っておけば勝手に」
「無理です無理ですよ、大将に関しては無理です!アンタだってわかってるでしょうが!アイツは現代に生きる穢れない天使チャンなんですから・・・!」
 絶句すなわち肯定。
 ロイは呆然とした。



 ロイマスタング29歳、地位は大佐。東方司令部出世頭として手腕を発揮し、錬金術師としても炎を操る天才肌の、若き美貌の野心溢れる、未婚の・・・・・・
「・・・・・・・・・・・まあ練習だと思って。いつか自分のお子さんに応用すればいいじゃないっすか」
 薄情な部下が、そういってロイの手に、そのいかがわしいタイトルの書籍を積んだ。
 





************






「で、わざわざ自宅まで呼び出して、なんのようだ中年」
 金髪の目つきの悪い小僧の第一声を聞いて、思わず発火布の所在を確認してしまう、ロイも大概大人げなかった。まあ待て落ち着け相手は子供だ15歳の、精通もきてない小僧だ、と言い聞かせながら、ロイはハボックに手渡された本を、そっくりそのままエドワードに渡した。
「いいから読め。弟がいては、読みにくいだろうと気を利かせて、自宅にまで呼んだのだ。遠慮するな」
「はあ?なにわけわかんねえこといってんだ、中年。なんだこれ。『十代の正しい性知識』げー!ばっかじゃねーの!いらねーよこんな本!この中年!」
「語尾に中年をつけるのをやめたまえ。ならば言わせてもらうがな、鋼の。胎児が何故子宮に宿るか知っているのか」
 渡された途端に放棄したエドワードに根気よく、もう一度手渡して、ロイは椅子に無理やり座らせる。エドワードは不満げに唇を尖らせた。
「あったりまえだろ、中年。オレは科学者だし、人体錬成も失敗したとはいえ、一度やらかしてるんだぜ?そのあたりの知識くらいはじめに頭に入れてらあ中年。精子と卵子が受精して、子宮に着床後、成長して赤ちゃんになるんだろ中年」
「・・・・・・・・語尾に中年をつけるのをやめたまえ」
「今日一日、語尾に中年ってつけるルールにしねえ?」
 あっはっはっはと笑う無邪気な顔に憎悪を覚えて、ロイは拳を握った。まあ待て相手は子供子供子供、童貞の子供だ。心を落ち着かせる呪文を唱え、ロイは無理やりに顔を歪め笑った。
「知っているならばいいんだがな。なに、昼間ハボックが、鋼のが『なんで男と女が一緒に寝てたら赤ちゃんできるんだ』といったとか言わないとか、寝言を言っていてな」
 殺す。と内心ロイは殺意をあらわにして、部下の顔を思い浮かべた。ほらみろ。そんなわけがないのだ。15歳にもなって、性教育を施さねばならんような、そんな男がいてたまるものか。錬金術師は科学者だ。そんな常識もわからないようで、国家資格などどれるはずもない。私が15歳の頃といえば、デートにデートに勉強に忙しかった。いくら鋼のがオクテだからといって、そんな、
「あ、それは本当なんだけど」

「・・・・・・・・・・・・・は?」

「いや、精子が男の体内でできるっつうのは知ってる。卵子は、女の人の体ん中だろ?じゃあさー、なんでその、体ン中にあるもんがくっつくんだ?両方一回外にださねーと、くっつかねえじゃん」
 なあ?と小首を傾げてかわいらしく眉を寄せるエドワードは確かに天使だった。穢れのないエンジェルちゃんだ。ハボックお前が正しかったと、ロイは眩暈を覚えて椅子にかじりつく。
「なんか、どの本見てもよくわかんねえし。なあ、大佐。そこんとこ教えてくれる?」
 エンジェルちゃんは、薔薇色のほっぺたが肩にくっつくほど首を傾げた。
 ロイの苦悩など、知るよしもないのだ。
「・・・・・・エンジェルちゃん」
「・・・・・・・変なクスリはもう大人なんだからやめとけよ」
 心底同情を浮かべてエンジェルちゃんに肩を叩かれるロイは、かわいそうな大人だった。
「・・・・・・・・・・・・・そんなバカな」
「おい、大佐。大丈夫か?救急車呼ぶ?歩いていける?」
「・・・・・・・・・・・・・・だからな。鋼の。受精というのはだな、男の未来のつまった猛る果実を、女性の花弁のワンダーランドに注ぐというか・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・麻薬はやべえよ、大佐。ラリるって、確かに現実逃避には最適かもしんねえけど、常習すると体がぶっ壊れるんだぞ?」
「・・・・・・・・・・だから要するに。おしべがめしべで」
「・・・・・・・・・・・・やべえな・・・・、中尉にとりあえず電話したらいいのか?こういう場合」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめた」
 ぷちんと、どこかで血管の切れる音がした。
 二、三本。
「やってられるか・・・・・・!」
 そもそもこんなことを私にやらせたハボックが悪いのだ。そうだ全部ハボックのせいだ。
 とにかくなにが何でもハボックが悪い。
 今から、私がなにをしようとハボックの責任だ。
「直に体に教えてやる」
 ぽかんと口を開けたエドワードの顔をどこか小気味よく思いながら、ロイは抱えあげた。勝手知ったる我が家だ。呆然として手の中で大人しくしているエドワードを抱え、寝室へと歩く。足で扉を蹴破って、乱暴に子供をベッドの上に放り投げた。
「っにすんだ!」
「お前、知りたいといっただろうが。どうやって子供をつくるのかと」
 ぐ、と襟に手をかけてロイはシャツを緩めた。乱暴にボタンを外して、傍らの椅子にほおリ投げる。ベッドの上のエドワードは、口を開けてロイを見上げた。膝を突いて、ベッドにのりあげれば軋んだ音が響く。やけに卑猥だった。カーテンも引かれたままの室内は薄暗く、シチュエーションは最高だ。
「ありがたく拝聴しろ。いや、拝見しろかな?」
 ロイが笑うのに、不吉を覚えたのかエドワードが顔をしかめた。
「・・・・・だまって足を開いてろ」
「なに?」
「男の生理を教えてやろう」






「ギャーーーーー!」
「っの・・・・」
「へんたいー!!ギャー!憲兵さーん!ここにドホモがいますよおおおおお!」
「うるっさい・・・!」
 ズボンに手をかけられて引き摺り下ろされ、ようやく自分の置かれた状況が理解できたらしい。エドワードはパンツを死守しようとベッドの上で暴れた。抵抗するのを無理やり押さえつけて、ロイがそこへ手を突っ込む。
「なななななに触ってんだてめえ・・・・!!ぶっころすぞ・・・・!」
「いいから足を開け・・・・っ」
 力にものを言わせて、無理やり子供の足を開く。押さえつけて、何度か幼い性器をこすりあげれば抵抗の力が一瞬抜けた。その瞬間を逃さず、ロイは括れを部分を指先で弄る。
「・・・・・・・・・・・・ぁ、やめ・・・・・・んん」
「わかるか、鋼の。これが快楽。気持いいだろう?体の力が抜けて、奥が疼く」
 簡単に堅く立ち上がったそれの先端を何度か指の腹でこすれば、ぬるぬるとした淫液が滲んだ。エドワードは体を丸め、抵抗することを忘れて震えている。
「これを、何度か繰り返せばやがて射精する。精液だ。だしてやろうか?」
「・・・・・・・・・・・やぁ・・・・・」
 頬を赤らめて、快感に耐える眉が艶めいていてロイは思わずどきりと鼓動を鳴らしてしまう。ベッドの上に金髪が綺麗に散って、少女のように見えなくもなかった。もとより見目のいい子供だ。口を開きさえしなければ。くちづけたい衝動を抑えて、ロイは掌を動かした。途端にびくびくと体を揺らすエドワードが無性にかわいらしい。
「・・・・・・・・や・・・・なんだよ、これ・・・っ!やだ!大佐!なんかヤバイ・・・っ」
「なにが?」
「・・・・と、トイレ行きたくなった・・・・!もう、はな・・・っ」
「そのまま出していいよ。イきなさい」
「はあ?てめえ・・・・真性のド変態かよ・・・っ」
「おしっこがでそう?違うよ、鋼の。ここからでるのは」
 ぎゅうと性器を握り締める。射精を阻むような意地悪は、しつこく中年呼ばわりされたささやかな仕返しだ。
「精液で。これを、そのまま女性に注ぎ込む。女の体内で受精してそして着床するんだ。わかるか?」
「やだ・・・・・っ、やだやだぁ!大佐、なんか出るって・・・・・・っ」
「いいよ」
「ぁっ」
 そのロイの色もそっけもない言葉に、なにを想像したのか、幼い子供は簡単に達してしまう。ロイの掌に、どろりとした白い液体が零れ、そのままシーツへ滴った。子供は下肢を震わせて、潤んだ金の双眸を見開いて横たわっている。その頬にくちづけを落として、耳朶に囁く。
「・・・・・・気持ちよかった?」
 恥ずかしいんだろうか。両手で顔をゆるゆると覆い、もぞもぞと両足を動かしている。
「鋼の?」
「・・・・・・・・・っ」
 見る見る間に顔が真っ赤に染まってゆく。体を桃色に染めて、腰が立たないのだろう、膝を抱えようとする。薄暗がりでもわかるほど真っ赤に染まる、白い体がなぜかふとロイの性欲を刺激した。
「・・・・・・・・・・・・・・いやだ」
 小さな、そのエドワードの声に、ロイは視線を落として微笑した。出したばかりなのに、エドワードの未熟なそれはまた勃ちあがりはじめていたからだ。
「・・・・・・・・・どうし・・・・・・・どうしよう・・・っ」
 泣きそうな子供をなだめるように何度も頬にキスをしてやる。射精の快楽を覚えたばかりの子供は、欲望に耐え切れずに震えている。なんだ、この小僧もこうしてみれば、結構かわいいじゃないか?
「手伝ってやろうか?」
 拒む術が子供にないことを知っていて、ロイはあえて問う。
「出なくなるまで、付き合ってやろう」
 自らの下腹部をも熱くさせて、ロイは子供の背中をなでた。
 一瞬犯罪?という言葉が頭を過ぎったけれど、都合よく解釈することにする。
 これは性教育の一環なのだ。





****************







 カリカリカリカリ書類に向かうロイの手元が不意に翳った。
「ハボック」
「アンタ」
 その形相に不吉なものを感じてロイは、眉を寄せた。
「手えだしたでしょ・・・・・!」
「・・・・・・なんでバレ・・・・・・・・って、いや、違う!!」
「なにが違うんスか!あーもー!最低!最低ッス大佐!大佐最低!」
「何回も言うな。なんでだ、なんでそういう・・・・」
「大将が!真っ青な顔して言いました。さてなんていったでしょう」
「・・・・・・・・・大佐ってかっこいい?」
「違う!『あんな痛い思いをして子供を授かるなんて女の人って偉大だな』です。反論は?!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありませ」
「当たり前でしょうが!あー・・・!しんっじらんねえ!アンタは動物ですか?いや、動物以下ですか。オレが言ったのはエドワードに性教育をしてやってくれであって、性の手ほどきをしてやってくれじゃないでしょ!なに聞いてたんですかこの耳は!」
「・・・・・・・いや、これはいろいろ事情が」
「言い訳はいいッス」
 ハボックはロイの机の片隅に追いやられた性教育の書籍をひったくり、残酷に宣言した。
「中尉に言いますから」
 地震雷火事中尉だ。
「・・・・・・・・・・・おまえ、私に死ねというのか?」
「自業自得でしょ。身辺整理しといてくださいね」
 冷たく言い切って、ハボックは背中を向けた。
「遺書の書き方の本、借りてきてあげますから」
 何の救いにもならないハボックの言葉に、ロイは机にうつぶせた。消えてなくなりたいと唱え、虚ろに笑う。 



「・・・・・・・・・でもきもちよかったな」



















戻/終