へたくそ







 ある日、大佐が言った。「そんなにいやならもうしないよ」
 お手上げだ、とでもいうように。両方の手のひらを上に上げて、肩をすくめた。大佐の顔?顔は見てない。
 ほとんど同時にオレは右手を振り上げていたから。




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 インターホン。

 を、押す。
 のだ。
「・・・・・・・・・・ぐぬぬぬぬ」
 この小さなボタンひとつ押せないわけはない。押せ。押せ。今押せ。すぐ押せ。押して、・・・・・なんていうんだった?『借りてた本返しに来た』?『この文献の記述で聞きたいことが』?それとも『報告書の訂正を』?なんとありきたりないいわけだ。だが確率として、確率としてだ。借りていた本を深夜にどうしても返したくなる夜があったとしてもおかしくはない。おかしくはないのだ。自然なことだ。意識するからだめなんだ。普通に普通に。クソ、押せ。押せエドワード・エルリック。押すのだ。押せ!
「よう大将、なにやってんだこんなとこで」
 ぽん、というよりドス!という勢いで肩を押されて、エドワードの指はいとも簡単に押しあぐねていた上司宅のインターフォンを押した。ぎゃああああああああと同時に叫んでしまい、肩を押したハボックもぎゃあああああああとつられて絶叫する。
「なななななななななにやってんだ、少尉こそっ!!何時だと思ってんだよ!!」
「大将こそでけえ声だすんじゃねえよっどこのギャルだっ!」
「こっちの台詞だっつうの!!!あほか、押しちまったじゃねーかインターフォン・・・っ」
「押すためにあんだろが、押してなにが悪いんだホレホレホレ押しまくってやるっ」
 この当たりでそろそろ二人ともどうしてここにいるのかという本題を忘れてしまっている。エドワードを押しのけ、ピンポンピンポンとどういう嫌がらせだといいたくなるようなスピードで押される、インターフォンにエドワードは、『あんなにオレが悩んで押せなかったものを軽々と押し捲っている』、ハボックに殺意が芽生えた。
「ちょ、オレが先に押そうとしてたんだろうがっ邪魔すんなよな!」
「うるっさい、子供がこんな時間にウロウロしてんじゃねえよっ深夜に大佐んちピンポンダッシュってかぁ?!さっさと帰れ身長足らずっ」
「た、た、たたらず・・・っちちちちちちちちちチビって素直にいやあいいだろうが・・・・やんのかこの・・・っ」
 お前がお前がと お互いが譲らず、ほとんど戦闘態勢に入ろうとするエドワードを身長と握力で圧倒するハボック。の図は正直異様だったらしい。なんだなんだと扉の隙間から子供と軍人のどつきあいを扉の隙間から覗く、アパートの住人たちの視線が胡乱であることに二人は気づいていない。
「おまえらな」
 目の前の扉が開き、今まで寝てました、という風情の上司がバケツいっぱいの水を二人の頭上に降り注ぐ。
「痴話げんかはよそでやれ」
「・・・・・・・・・チワ」
「ゲンカ」
 全身を濡らして呆然とするハボックとエドワードは、お互い何の用でここへ来たのかを、ようやく思い出した。



 とりあえずはいれ、と強引に押し込まれ、ハボックは風呂、エドワードは着替えを見繕ってやると寝室へ放りこまれた。思ったよりも片付けてんなと居心地悪くたたずむエドワードに背中を向け、ロイは自分の衣類の中から比較的サイズの小さなものを寄る。怒ってのかな・・・と思う。思うけれど、気持ちが驚くほど平静だった。考えるのがイヤになってる。もうこれ以上考えたくない。ここへ何をしにきたのかを思い出したからだ。
 たった一つのこと以外は、もう考えないようにしたんだ。
「ぁのさ」
 声が裏返った。ロイの背中に指で触れてみようかなとエドワードは指先を伸ばした。と、ほとんど同時にハボックがブラブラさせながら(もちろん例のものをです)、豪快に寝室に押し入った。
「大佐、着替え貸してくださいよー」
「・・・・・・・・・・」
 無言で押し付けられたシャツのサイズの微妙さに、げーコレぴったり過ぎませんかあ?ゲイみたいじゃないスか?オレ。おっ大将はでかすぎんじゃね?裾まくってまくって!とやたらハイなハボックに殺意を覚えながら、エドワードはロイに伸ばしかけた指先を握りこんで拳を作った。
「いーからさっさと浴びて来い!」
「鋼の、君もさっさと着替えたまえ。風邪を引くだろう」
 飛び掛ろうとするエドワードに、衣類を押し付けるロイは、けしてこちらを見ようとはしない。視線もあわないまま、出て行こうとするロイを呼び止めることもできず、エドワードは少し息を呑んだ。
(怒ってんの?)
 そう、聞きたかった。
 ハボックさえいなければ。
「大佐、チンコ見るのやめてくださいよー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・扉の向こうからもれ聞こえるハボックの台詞に脱力し、エドワードはやっぱり今日くるんじゃなかったと己のタイミングの悪さに絶望する。。
 交代で風呂を借りて、エドワードが大きすぎるサイズのシャツの裾をまくりながら(不本意ながらハボックの言ったとおりの結果になった)風呂場を出、リビングに足を踏み入れるとすでにそこでは酒宴が始まっていた。そうか、少尉の目的はコレかとエドワードは頬を引きつらせる。 
「おっ、やっと出てきたな、大将。あはははは、やっぱデケえな、大佐のシャツ」
「こんな夜中に酒盛りかよ。明日に響いてもしらねえぞ」
 未成年にはわからぬ味の蜜をすすり、ハボックが鷹揚に鼻を鳴らす。
「ふふん、オレは明日非番なんだよ」
「大佐は違うだろっ」
「違うが、ここまで散々人の睡眠を邪魔して騒がれては、私も飲まないことには眠れそうにもないのでね」
 憮然とした表情で、ロイはハボックの向かいのソファに座り、グラスを傾けている。二人の間におかれたテーブルの上の瓶の本数を確認して、エドワードはあからさまに顔をしかめた。
「・・・・・・今から、それ全部飲むとかいわねえよな?」
「なにいってんだ、飲むために買ったんだっつうの」
「今何時かわかってんのか・・・っ」
「えー・・・・・・23時」
 キャッキャッと笑うハボックはアルコールが回る回らない以前に、とっくにハイになってしまっているらしい。
「バカだろ、つかバカだな?アンタらバカだ!」
「そういう大将は何しに来たんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・は?え?オレ?」
 急に矛先を向けられて、エドワードは血の上りかけた頭に冷や水をかけられたように素になった。はて、何をしに来たのだったかとすぐには思い出せずに、思わずロイを見る。一瞬あった視線をすい、とそらされて、アアそうだと思い出した。『オレは、今日、ここへ何をしにきたのか』
「や・・・・・・今日出した資料、つか報告書、字間違って・・・・・た?とか思って・・・・・」
「報告書を私は持ち帰ったりなぞしない」
 すぱんと断ち切るように冷ややかに返答が返り、エドワードはプチンと頭の中の血管の切れた音を聞いた。

 ああそう。

 ああそうですか。

「えーと・・・・・・もしかして、オレ空気読めてない?」
 二人の間に走る緊張感にいらぬ気をいまさら聞かせようとするハボックに、青筋を立てエドワードは笑顔を無理やり向けた。
「全部、飲むんだったよな?少尉」
 ぎりぎりと歯軋りの聞こえるような笑顔で、エドワードが瓶を二本わしづかみにする。ハボックのグラスを奪い取り、二本同時に注ぎ表面張力をはるかに超えてあふれてなお注ぐ。それを呆然とロイとハボックは見るばかりだ。なみなみとつがれたグラスを押し付け、さらにロイのグラスをも奪い取り同様に注ぐ。そうして二本の瓶を同時にエドワードはラッパ飲みするという曲芸を披露して見せた。
「・・・っはあっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のんだ」
「飲んだな」
「飲んだからなんだっつうんだチマチマすんじゃねーよ」
 完全に目の座っているエドワードから酒瓶を奪うことをしばし躊躇した大人二人の、油断をついて、さらにもう一本にエドワードは手を伸ばす。
「た、大将、それ以上はやめといたほうが・・・」
「あ?誰がオレがのむっつった?今の景気づけだよ景気づけ」
 どうして景気をつける必要があるんだろうとほとんど同時に頭に浮かんだハボックとロイは、それでも突っ込めずにとりあえず手元のグラスに視線を落とす。二種類のアルコールが、えもいわれぬ芳香を漂わせ、鼻をくすぐる。ああこれ高かったのにとおのれの薄給を思い、捨てる気になど到底なれずに、ハボックは一気に煽った。
「ひゅうひゅうー少尉、かっこいいー」
 棒読みで青筋露わに冷やかすエドワードに、にへ、と愛想笑いを返すハボックは大人だった。間髪居れずにあいたグラスに注がれる三種類の酒に、ああー明日は二日酔いでせっかくの非番をベッドですごすのは確定だとハボックは「いえー」と頬を引きつらせながら杯を高く掲げて見せた。もういやだこの空間の緊迫感、とほとんど半泣きである。
 その後、結局酒をちゃんぽんで無理やりハボックを一時間で潰し、エドワードは勝ったとひそかに拳を握った。
「ざまあ・・・っ」
「で?」
 その声にはっ、と再びわれに返り、エドワードは肩越しに振り返る。忘れ去られていた部屋の主が、ソファの背にもたれかかり、見るからに不機嫌なオーラをかもし出している。あからさまに忘れていた自分を自覚しているので、エドワードはとっさに声もない。そうだ、オレはなにもこんな深夜に風呂をかりにきたわけでもなければ、少尉をつぶしにきたのでもない。もちろん報告書の字の訂正などあからさまな嘘をこの男も信じているわけもないだろう。おおかた自分が来た理由を察しているのだろうに、こうして、あくまでもエドワードに言わせようとするあたり、性格の悪さがにじみ出ているようだった。
 クソ。
 何だってオレはこんな奴。
「何をしにきたんだ?」
 ニコリともせず、ロイはそういい、グラスを傾ける。その様子が本当に疲れてきっているように見えて、エドワードは急かされるように立ち上がった。
 立ち上がり、エドワードは戸惑う。何をしたらいいのかわからないのだ。いや、何をするべきなのかはわかっている。だが、そのための手段がわからないのだ。下から見上げられて、何かをいわなければ、と思うのに。いつもだったら、どうした鋼の、とかこっちへおいで、とか優しい言葉と手のひらを差し出すはずの男は無表情のまま沈黙している。ああほんとなんでこんな男。気まぐれで残酷でやさしい。一度しった蜜の味を、いまさら手放すようなまねが、オレにできるとでも思っているのか。
「・・・・・・・・・・・・・・背中」
 長い沈黙を破り、ようやくあえぐようにエドワードがそれだけを呟く。ロイが怪訝に眉をよせて聞き返すのも仕方がないことだった。あまりに唐突だったからだ。
「背中がなんだって?」
「かゆいんですけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとまってもらえるかな、鋼の。なんだって?」
 かああああああと頭に血が上るのがわかる。喉がからからで、次に告いだ言葉は裏返って上ずって、みっともないことこの上なかった。けれどいったん口に出したものをなかったことにはできず、エドワードはさらに続けた。
「背中がかゆいんですけどっ」
「そ、それはわかったが・・・」
 戸惑うロイ・マスタング、というのが少し新鮮で、その表情から険がわずかに和らいだような気がして、エドワードの背を押した。汗ばんだ掌をキツく握り締めて、エドワードはロイの隣に腰を下ろす。もちろん視線を合わせることなどできるはずもなく、コチコチに固まったまま、真っ赤に汗をかくエドワードはさらに続けた。
「か、かいてくんない・・・っ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「セ、背中なんだけど・・・っ」
 ええいままよと悲壮な決意でもって、エドワードは背中を捲くってみせる。
「手が届かないのでっ」
 ほとんど自棄を起こして、大声でそう怒鳴る。反応が恐ろしくてとてもではないが隣を見ることができなかった。
「・・・・・・・どこ?」
 意外に平静な声が隣から聞こえてきた。
 答えなくては、とエドワードは10分近くも沈黙した挙句、勇気を持って答えた。
「せ、せなかの、しししししっししししししし、した、したぎのっゴ、ゴムの・・・・っ」
「・・・・・・・・・・・・・・ええと」
 戸惑う声にあっさり限界を超えて、エドワードは半泣きで勢いよく立ち上がり、眠りこけるハボックごと向かいのソファを蹴飛ばし、今日だけは怒鳴るまいと決意したことをあっさり忘れて男に向かって怒鳴りつける。
「誘ってんだろが、気づけこのボケ!!!!!!!」
 同時にロイも限界を超えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ぶはっ」
 ハハハハハハハハアハハハアハハハアアハアハハハハハハハちょっとま、まってくれ、おな、おなかがイタ、イタタタタアハハハハハハハハハハハと笑い転げるロイを前にエドワードは緊張と恥ずかしさと怒りと戸惑いとがない交ぜになり、今にも卒倒しそうな顔をしている。笑われている理由も状況もとうにエドワードの処理能力を超えていた。暴れだしたい衝動をこらえるのに精一杯で、脳がおいつかない。なんで?なんでこいつ笑ってんの?
 ゆでたたこのような顔色のエドワードをみるにつけ、笑いがこらえきれないのかロイは苦しそうに喘いでいる。なんだこのバカ。そもそもてめえが言い出したんじゃねえのか。オレがキスされんのもヤラシイことされんのにも抵抗しまくるのにキレて、「そんなにいやならしない」なんてガキみてえな台詞でオレを、お前が先に拒絶したんじゃねえのか。なのになんでコイツ笑ってんの?人の悲壮な決意を。
「笑い事じゃねえ・・・・・・・・ぜんっぜん、笑い事じゃねえぞ・・・・」
 地の底から呪うような低音がさらに笑いのつぼをぐいぐい押すのか、ロイは笑い転げ続けている。
 どれだけの勇気でエドワードがここへきたのか、コイツはわかってるんだろうか。否、わかっていない。『男を誘う』という行為がどれだけプライドを犠牲にしなければならなかったか、けれどそれを押してまでも、ロイに拒絶されるということが恐怖だったのか。どれだけ、アンタを好きか。
 こいつは、ぜんっぜん、わかってない・・・・・・・・・・・!
 ぶっ殺す、という意思があるのに、なぜか力が入らない。怒りに目の前が赤くなって訳がわからなくなる瞬間は自分にとって身近だったはずだが、エドワードの拳はゆるく握られたままだ。視界がぼやけて、喉の奥が甘く苦い。あ、やべ、泣く、とエドワードは思い、けれど踵を返すこともしゃがみこむこともできずに、呆然と立ち尽くしてしまう。ぼろぼろぼろぼろと雫がこぼれて、襟をぬらした。泣いているエドワードに気がついたのか、ロイは目を丸くしている。
「・・・・・・・・・・エド?」
 神妙に名を呼ばれても、今は返事もできなかった。何から言おうか、言うべきか、それもわからない。小さな子供に帰ったようだった。コイツの前ではこんなふうに泣きたくないのに。
「おいで」
 なぜか逆らえず、エドワードは手を引かれるままに男の膝の上に収まってしまう。涙は止まらず、そのままぼろぼろとこぼれ続けている。ロイが腕を回して、華奢な体を抱き寄せた。
「・・・・・・・・どうした?」
「・・・・・・・きら、嫌われたかと」
 ぽつりと素直な言葉がこぼれた。こうしてやさしくされて、初めて認めることができた。そうだ、オレは怖かったんだ。ロイに嫌われたのかと、怖かった。
「い、いやじゃ、なくて。は、はずかしいけど、キスとかそういうの、いやじゃ、な、なくて・・・・」
「うん・・・・」
「もうしないって、アンタがいうから、や、やじゃねえとこ、みせねえとって」
「うん、ごめんね。私が大人げなかったな・・・・」
「ほ、ほんとにそう。アンタ、大人げなさすぎ・・・・っ」
「君のそういう子供っぽいところとか、恥ずかしがりなところとか全部知ってるつもりで付き合ってたんだけどね。どうしても欲が出る。大人だから」
 瞼にチュ、と小さく吸い付かれて、思わず目を閉じる。甘えるような仕草だとわかっていたけれど、今日は驚くほど男の前で素直でいられるような気がした。撥ね付ける自分を想像するのは容易だったけれど、そのままでいたかったのだ。本当はいつだって素直でいたい。甘えてねだって我侭に手を繋いでいたい。なのに、冷静な自分がいるのだ。
(お前釣り合ってるとでもおもってんの?と)
「本当に嫌がられてたらどうしよう、とか」
「本当にいやだったらオレ、アンタのこと多分ぶっころしてるけど」
「・・・・・・・・・そういうリアリティのあることをいうのはやめてくれないか・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・がんばってココきたのに、アンタ怒ってるし」
 ひどい、と言外に非難をこめてエドワードが恨みがましく呟くのに、ロイが苦笑してみせる。
「・・・・・・別れ話かとおもったんだよ。君が今日来なかったら、私が明日謝るつもりだった」
「・・・・・・・・・・・・・・そんならこなきゃよかった」
 不貞腐れた声で、唇を尖らせる。そしたらあんな醜態さらさずに済んだのに。
「君に嫌われたら生きていけない」
「そういう軽口、オレ嫌いなんだけど」
「・・・・・・ほんとだよ」
 その声がひどく真摯で、あれ、コイツは思ってるよりオレを好きなのかなとエドワードは思い当たる。釣り合ってるとか、つりあってないとか考えてるのはオレだけで、コイツは結構一生懸命なのか、と。気がつけば、安堵に肩が落ちる。ロイもまた、自分と同じように不安なのか。
「・・・・・あんたも怖かったの」
「そりゃあ、そうだよ」
「・・・・・・・・・なんかやっぱ、今日来なきゃよかった」
 余計な恥さらしただけじゃねえかと、誤魔化すように呟く。それを耳に留めて、ロイが答えた。
「私は嬉しかったよ。ありがとうエドワード。・・・・・・・・・・今日は泊まっていけるだろう?」
 鼻先で、首筋をくすぐるようにする男の仕草に首をすくめてエドワードは笑う。くすぐってえよと体を押し付けながら、口付けたい衝動に駆られる。鏡を移すように男も同じ思いだったのか、そのまま唇が首筋をたどり、口の端にたどり着いた。そっと触れるのに、体が震えた。
「あとでもう一度誘ってくれる?」
「ぶっ殺すぞ・・・・」
 君が言うと、それも誘い文句みたいだね、とロイが笑った。


 実は目が覚めていたハボックが一部始終を、横になり固まったまま目撃していることなど知る由もなく、エドワードはそのまま男の腕に身を任せた。