舞台裏では








「つきあって」

 目の前のチビは、そういって顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
 聞き間違えたんだろうかと、ロイは首を90度に傾けた。
「・・・・・・・・・・・すまん、鋼の。もう一度いってもらえるか?・・・・・・・・・・・・なんだって?」
「だから、つきあって」
「・・・・・・・ちょっとそこに買い物に行きたいとかそういうことじゃなくて、私の誤解ならば本当に申し訳ないんだが、それはもしかして、私と手をつないだりキスしたりセックスしたりそういうことがしたいということか?」
「ひひひひひひひひひひひらたくいえばな」
 盛大にどもりながら、チビは唇を尖らせそっぽを向いた。
 どうやら寝ぼけているわけではないらしかった。
 ロイはたまらずため息をつく。
「っだ、そのため息!!」
「一つ聞くが。君はホモセクシャルだったのかね?」
 自分でも、そんな疑問に意味がないことは充分承知している。このチビがホモだろうがノーマルだろうがレズだろうが、現在の状況になんら劇的な変化をもたらすことはないのだから。とにかく、このチビは本当に私のことを好きらしい。この顔色や口調や体の震えが演技ならば、騙されたとしても恥じることはないだろう。
「・・・・・・・・・・・・・アンタのことがすすすすすすすきなんだから、ホモなんだろ・・・!」
「ハボックとかブレダとか、ああいう系統の男は好みじゃないのか」
「おえー!きしょくわりいこというな!いっとくけどなー!男がすきなんじゃねーんだからな!」
 それはあれだろうか。よく恋愛小説なんかで100年くらい前から定番の台詞と化している、「私はあなたが男だろうと女だろうと犬だろうと虫だろうと愛しているわ」という奴か。筋金入りだな。
「・・・・・・・・・男は、許容範囲外だ」
 じろりと横目でにらみながら意地悪く言ってしまうのは、常日頃からのこの少年との関係のせいだろうか。あんなに人のことを嫌うそぶりをしておきながらいまさらほんとは大好きだなんて、反則じゃないだろうか。
 再会のたびに、顔をゆがめて地獄をみたような顔をするくせに。
 少々の意地悪に罰をあてられる筋合いはない。
「・・・・・・・・・・・でも、アンタ、何でもいうこと一つ聞いてやるってゆった」
「そりゃそうだが。そんなので付き合って、うれしいか?」
「・・・・・・ほんとは、アンタがオレのことも好きになるまでまつつもりだったけど。そんなんまってたら、オレじじいになる。アンタはいっつも女とデートしたりデートしたり残業したりデートしたり残業したりデートしたり」
 人の人生を残業とデートで構成されているように言わないで欲しい。けれど実際そうなのだからロイも二の句が告げなかった。
「なんでもいうこときくっつったの、アンタだろ。もう、そんなんでいい。そんなんでいいから、オレと付き合って」
 健気だとは、一瞬思ったけれど。
「いっとくがな、鋼の。私くらいの年になると、付き合うといっても交換日記をしたり手をつないで帰ったりほっぺにキスしたりなんて清い交際はお断りなんだぞ。愛欲と駆け引きにみちた大人の恋愛だぞ。私と付き合うというのはそういうことだ。わかっているのか?」
 自分でも、コレが職場である執務室でかわされる会話だろうかと疑問におもいながらも、しかしコレだけははっきりさせておかねばと語尾を強める。
 そして予想に反して、途端に熟れすぎたトマトのような顔色をして、エドワードは小さく呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・わかってるよ!」
 
 アーメン。
 神様。
 これでわたしも犯罪者のお仲間入りです。
 未成年とお付き合いするハメになったようです。
 それもこれも全てハボックのバカが女に三日でふられるという偉業を成し遂げたせいです。
 罰ならアイツに与えてください。
 あの筋肉バカなら少々の厳罰にもけろりと耐え抜くことができるとおもうので。
 アーメン。
 畜生。アーメンってどういう意味だ?





 

 基本的にエドワード・エルリックとロイ・マスタングは仲が悪かった。
 会えば嫌味の応酬にはじまり、嫌味の応酬に終わる。
 仕事の上では上司部下とはいえ、かたや29歳にしては大人げのない弱者を苛めるのに心血を注ぐ元来のS気質で、かたやすぐむきになる単細胞の正真正銘の15歳ぴちぴちの未成年である。仲がいい訳がなかった。
 賭け事は二人の間でよく行われる、血の流れない戦いだ。
 勝ったほうが負けたほうのいうことを一つ聞く、というのもそのルールのうちの一つだった。
 今回の賭けの対象に選ばれたのは、最近彼女が出来たというハボックだった。ちなみに、ハボックは賭けの対象として選ばれたのは、コレで通算9回目だ。タバコを一日に何本吸うとか、次の彼女ができるのはいつごろかとか、イエスサーと一日に何回いうかとか。

『何日めで振られるか』

 ロイは、まあいままでのハボックの恋愛の平均は、2週間前後で振られている。今回も大差ないだろうと思ったのだ。
 だから、エドワードが3日と言ったときには、勝ったと内心思ったものだ。心の中ですでに、なにをやらせるか思案するのに忙しかった。
 それがまさか、ほんとうに、いくらハボックでも3日でふられるなんて。
 ロイにとっては、女に振られるということ自体信じられないのに、しかもそれが3日という最短記録を樹立する結果に終わるとは。まさかアイツ酷い変態で、変なプレイを強要したりしてふられているんじゃあるまいな。
 とにかく今回の賭けはロイの負けに終わり、そして付き合ってくれと迫られたわけだ。
 経過を鑑みるに、涙が出てくる。
 賭けは賭け、約束は約束だった。その制約を破るつもりはなかった。
 ただ、あのチビでどこからどう見ても男で乱暴で短気な15歳と付き合うという事実は、ロイをどうしようもなく憂鬱にさせている。

 勃起できるだろうか。

 笑えない、切実な問題だ。
 あんな子供に欲情する変態になりたくはないが、恋人という以上は、そういう行為も視野に入れておかねばいけない。しかもあの調子では束縛も酷そうだし浮気もおちおちできまい。
 けれどロイの計算では、土壇場でベッドの上から飛び降りて、そのままエドワードは戻ってこないのではないだろうかと予想している。口では、なんだかんだいいながらいざとなったらその生々しさや、快楽や、ロイの下半身を見て、尻尾を巻いて逃げ出すのじゃないだろうかと。所詮15歳。しかも真性のホモセクシャルというわけでもないようだし。思春期の気の迷いに決まっている。ベッドの上にのっかって足でも開けば考え方も変わるだろう。
 そのためには、この自分が勃起も出来ないようでは困る。
 萎えた下腹部を見れば、あの子供に侮られるかもしれない。いや、侮られるに決まっている。
 かつてこの自分が、誰かと付き合うことでこんな不安に襲われたことがあっただろうか。
 いやない。
 
 神様。どうか、あの子供の気の迷いでありますように。
 どうせ、いざとなったら怯えて逃げるに決まってる。








 決まってるのに。
 濡れた頭をタオルで乱暴にぬぐう。すぐ脱ぐとはいっても、全裸ででるほど気合が入っていると思われるのも困る。簡単にシャツ一枚とズボンを身につけて寝室に足を踏み入れた。机に放り出したままの本は、エドワードの興味を引いたのだろうか。すでにこちらに気がつかないほど集中しながらエドワードは、紙面の字を追っている。
「鋼の」
「ううううううううわあ!!!」
 そんなにも驚かれれば気分が悪い。人の寝室で本に没頭しておきながら、部屋の主に驚くなんて。
「こっそりはいってくんじゃねーよ!!」
「あがったよ。入ってくるといい」
「う。うう・・・・ん」
 すでに明りのトーンをおとした、いつもの自分の寝室が、今日ばかりは違って見える。
 それは目の前で真っ赤になって震えるこの子供のせいかもしれないし、以上に下半身に意識がよっているこの自分のせいかもしれなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・逃げずに来たな」
「は?にげるって、なんで」
「いやべつに。鋼の」
「ななななななんだよ」
「シャワー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
 なにをそんなに長考することがあるのだろうと言う、微妙な間で返事を返してエドワードはよろめきながらソファを降りた。ふと悪戯心を覚えて、
「一緒に入るか、それとも」
 意地悪く聞く。答えは当然ノーだとわかっていながら。
「あ、あほか・・・・!うるせえ、アホ」
 いつもの罵声にも勢いがない。えらくしおらしくなって。こみ上げた笑いをこらえながら浴室へと向かうエドワードを見送った。
 ベッドサイドのあかりに照らされた、殊勝な横顔は意外にかわいらしかった。こうしてみれば、確かに容貌の整った子供だなとロイは改めて知った。まっすぐで癖のない金髪に、伏せられた睫は意外に長いし、その奥の瞳は琥珀に似た金色。肌は、そこらの女よりよほど真白で美しい。黙って座っていれば、少女に見えなくもないのだ。
 わるくないかもな。
 一瞬そう思い、ロイはそう思ったことを振り切るように頭を振った。
 バカか。惑わされてどうするのだ。
 
 今から、あの子供と寝るのか。
 それは途方もなくばかばかしい冗談のように、ロイには思えた。








 ぎしりと床が軋むのは、子供がそうっと歩いているせいだ。まるで一歩一歩確かめるように、夢の中を歩いているようにゆっくりと歩み寄る。
 タンクトップに、わざわざ持ってきたらしい着替えの短パンが驚くほど色気がない。
「・・・・・・・・・・・・・・・上がったぜ」
 見たらわかることをわざわざ口に出すあたり、だいぶ緊張もピークに達しているらしい。ぽたぽたと毛先から雫を滴らせながらゆっくりとベッドに近づいてくる。湯上りで頬が薔薇色になっている。こうして髪を下ろしている様は本当に少女のようだ。その分、いつもはなんとも思わないはずの機械鎧がなぜか少し痛々しかった。
「おいで」
 柄にもなく、どきどきと鼓動が少し早い。
 脇を抱えてベッドの上に乗せる。
 
目の前でチビはがちがちに緊張して、ベッドのうえで正座をしている。さっきからカチカチとなる硬質な音は、震えるあまりこの目の前の子供が歯を鳴らしているせいらしかった。ポルターガイストかとおもった。
「自分で脱ぐ?それとも私が脱がせようか」
 空気の密度がほんの少しだけ淫靡になる。このシチュエーションに条件反射して、ロイが低い声で囁いたせいだ。
 びくりと体を震わせ、何度か逡巡してから、エドワードは自身のタンクトップに手をかける。白い腹が露になった。
 脱ぐのか。と唆しておきながらやはり驚いて、ロイは息を詰めた。脱ぐだけでこんなに緊張しているエドワードに引きずられたのかもしれなかった。
「下も」
 風呂上りにもかかわらず、皮膚に鳥肌を立ててエドワードは下穿きにも手をかける。急いた仕草で下着まで取り去って、エドワードは両足を立てて抱えた。それでも隠しきれない、未熟な果実が立ち上がっているのを認めて、ロイは内心、この子供は本気なのだと悟る。
 本気で。
 本気で私と寝るつもりで。
 ごくり、と唾液を飲む。
 緊張は伝染するのだろうか。
「手を離して。横になって。隠すのじゃないよ」
「・・・・・・・・・・・あ、あかりっ、けして」
 かすれて裏返る声が必死に訴える。確かに見えないほうが自分にとってもいいかとロイは一瞬思った。
 けれど、エドワードの表情を見た途端。
 そんな心配は吹き飛んだ。
 近年稀に見る恥らいっぷりに、不覚にも下半身が即物的に反応したからだ。
「どうして?あかりを消しては面白くない」
「・・・・・・・・・・・・は、はずかしいだろっ・・・・・」
「・・・・・かわいいことを言う」
 首筋に小さいキスをおとせば、瞳をぎゅうと閉じて、如実に反応する。
 これはおもったより。
 そしてその予感は、エドワードの体を見て、確信に変わる。
 ぷるぷると震えながら、その体をベッドに横たえ、エドワードはなきそうな目でロイを見上げている。
 そしてすでに立ち上がり蜜をこぼしているピンク色の性器は、この上なくいやらしかった。
 とても自分と同じものだとは思えなかった。まるで女でもない男でもない。全く別の器官のようだ。
 ピンク色の、その果実は今にもはちきれそうにしとどに糸を引きながら少年の白い腹を濡らしている。
 それは淫猥で、たとえようもなく欲情を誘う。
 口で触れたい衝動を必死にこらえ、誘われるようにそれにそっと指先でふれれば、エドワードが両手でそれを押しとどめた。
「ちょ・・・・大佐!」
「なんだね?」
「・・・・・・・・キッ・・・・・キスとか!してくれよ・・・・・・・」
 消え入りそうな声でそれだけをねだり、さっきまでただのチビだった少年はロイにしがみついてくる。爪を立てられた背中も痛いと感じない。
 それにあからさまに性欲を刺激される。そっと、そのぷくりとした唇をついばめば、ため息をこぼしながらエドワードは必死に唇を追いかけてくる。
 不覚。
 キスなんて、当の昔にあきていてセックスの小道具でしかなかったはずなのに。
 こんなに深く下腹を疼かせるとは。
 いまどき処女でもここまでセックスに恥らったりすまい。
 新鮮な感動を覚えて、何時しかロイはその華奢な体に夢中になった。
 子供だとか上司部下だとか男だとか、全てを忘れて。
 薄い胸板に手を触れれば、そこが痛いほどばくばくと鼓動を繰り返している。
 くちゅ、と音をさせて舌を子供の甘い唇の中に忍び込ませる。エドワードは顔を真っ赤にして、両目を必死に閉じている。怯えているのだろうか、震えはずっと止まらない。舌先で歯列を割り、奥に潜む舌にからませる。くぐもった喘ぎがもれて、ロイにまわされた腕にいっそう力がこもった。
「・・・・・・・っは・・・」
 くちづけの合間に、息継ぎのように吐息をこぼすのが愛らしい。キスになれない仕草に、胸が締め付けられた。
 ロイはやめてやることが出来ずに、噛み付くような深いキスを繰り返す。
「ンッ・・・・・ぁ・・・」
「エドワード」
 ロイ自身わずかに息を乱しながら、吐息がかかるほど間近でエドワードの名前を呼ぶ。くたりと力が抜けたエドワードは腕を放し、ようやっとゆっくり瞳を開ける。金の双眸が潤んで、ロイを見上げている。
 キスだけでこんなになって。
 けれど強固な意志の力でロイは言葉を搾り出す。
「・・・・いまなら、まだやめることが出来るが」
「・・・・・・・・・・・・なに」
「だから、逃げるならいまのうちだぞと」
 自慢ではないが、理性には自信がなかった。けれどキスだけでこんな状態になったエドワードを前にして、最後までするほど大人げないつもりもない。
 何も、今日無理してまで体を繋げることもないだろうと。
 キスもはじめてするような子供が、この先のあんなことやこんなことに耐えられるとも思えないし、セーブしてやるほど自分の理性にも自信がない。
 なのに。
 なのに、この子供は顔を真っ赤にして眉を寄せ、泣きそうになりながら、こういうのだ。
「・・・・・・・・・大佐は、オレじゃ、だ、だめかもしんないけど・・・・・・・・オレはあんたとしたい」
 消え入りそうな声で、そんなふうにねだられて
「・・・・・・・・・大佐・・・・・してよ」
 金色の頭をうずめながら、縋りつかれて
 断るような男はインポか不能かEDだ。
「・・・・・知らんぞ」
 うめくように言い捨て、ロイはもう一度くちづけた。
 ベッドへ、乱暴に華奢な体を押し付け掌で胸元をまさぐる。指先で押しつぶすように弄れば、すぐにその小さな乳首がたちあがる。小さな悲鳴を飲み込むように、舌を押し込む。
「・・・・んんっ」
 唇を離し、顎を舐めあげ、石鹸のキレイなにおいのする首元に舌を這わせる。くすぐったいのか、首をすくめる仕草が子犬のようで笑った。緊張を少しでもほぐしてやりたくて、ロイはわざとくすぐるように耳朶を咥える。
「・・・ひゃ」
 けれどその途端に変な声を上げて、びくりと体を揺らしたところを見れば、逆効果だったようだ。ロイの体の下で、エドワードの性器は痛々しく蜜をこぼしている。そのピンクの果実は、眩暈がするほどロイを誘惑する。体を離し、ロイは迷うことなくそれを口に含んだ。
「・・・・・・っっ!!」
 悲鳴を押し殺して、跳ね起きようとするエドワードの抵抗を奪うように、裏筋をゆっくりと舐め上げる。舌先を尖らせて、先端の割れ目にねじ込む。がくがくと腰を震わせて、エドワードは足の爪先を伸ばした。
「や・・・・!きた、汚いから・・・っ」
 やめてくれと、最後まで言えずにエドワードは口元を両手でふさぐ。他にこらえる方法を知らないのだろう。もれる喘ぎが艶めいて、ロイの下半身にダイレクトに響く。
 男のモノを含んでいるのだという、嫌悪感は皆無だ。ピンク色で、いいにおいがして、口に入れた感触はやわらかくわずかに芯を持っていて、歯を立ててしまいそうだ。食欲と性欲のそのあまりに似通った衝動に、ロイは驚いた。かじりついたらどんなに、とそこまで考えてロイは笑う。
 先端を、ちゅう、と音を立てながら吸ってやる。
「ひぁ・・・・!やだぁっ・・・・・!ぁ・・・・す、吸うの・・・・や・・・!」
 わずかに滲んだ、苦味のあるその味にますますそそられる。深く根元までくちに含み、舌を絡みつかせながら引き抜く。何度かその動作を繰り返せば、エドワードは嗚咽に似た喘ぎを短くもらした。
「・・・・・・・・・・でる・・・っ・・・・から!はな・・・・っぁああっ!」
 その叫びと、射精の瞬間はほぼ同時だった。ロイの口の中に熱い、ねとりとした白濁がこぼれる。けれどやめようとせずに、ロイは、震える肉棒を何度もしごき上げる。ロイの口の端から精液がこぼれて、ぬるぬるとエドワードの性器を濡らしいっそう深い快楽に導く。
「やだ・・・・・・・あ!いや・・・・!も、もうはなし・・・っ!・・・ひ、ひ・・っ!あぁっ!」
 じゅぷじゅぷと耳をふさぎたくなるような音が二人の間を繋ぐ。幾度か強く吸い上げてやり、ロイは顔を上げた。濡れた口元をぬぐい、そして見せ付けるように自分の指先を口中に含む。どろりとした白い淫液と唾液が男の指に絡みつくのを、エドワードは焦点の合わない瞳で息を切らしながら見つめる。てらてらと光る指を濡らしているものがなんなのかすらわからないようだ。ポタポタと滴るほどのそれが、白いシーツに染みていく。
「だから、いっただろう?・・・・・・・やめてはやれんぞ」
 濡れた指先で硬く閉じられた蕾をぬるぬるとなぞる。
「・・・・・・・・・・っ」
 わずかに身を硬くしたエドワードの反応を見ながら、指先を第一関節まで埋めた。中は驚くほど熱い。かき回すように中をなぞれば、ぐちゅ、と子供が出した精液が粘膜とこすれて、卑猥な音を立てた。
「・・・・・・・・・っ、う」
 指先を飲み込むように襞が絡みつく。何度か抜き差しを繰り返し、ロイは乾いた唇を舐める。
 埋め込まれた指先から逃げるように、かすかにエドワードが身を引いた。痛むのだろうかと視線をあげても、子供は両腕で顔を覆うようにしていて、表情はわからない。
「痛むのなら」
「・・・・へい、き・・・・。・・・・・・続き・・・・・して」
 確かにいまやめてくれといわれても止まりそうにもない。ロイの陰茎は、ズボンの下ですでに蜜を染みさせている。少しでも受け入れやすいようにと、エドワードの体をうつぶせにかえす。体の下に腕を差し込み、尻を掲げる姿勢をとらせる。
「・・・っ、こんなの」
「このほうが体が楽だからな。それに全部見えて、とても扇情的だ」
 羞恥に耳まで赤くしながら、それでも抵抗せずにエドワードは顔をシーツに押し付けた。
 指を増やし何度もそこをほぐしてやれば、花が咲くように紅く潤む。その蕾がロイの指を締め付けるたびに、下腹部が疼いた。自身をこんなふうにきつくされたら、あっけなくもらしてしまいそうだ。かき回すうちにそこはちゅくちゅくと泡立った音を聞かせる。
「そろそろいいか」
 ロイの言葉にエドワードが強く蕾を締め付ける。背後から聞こえるベルトを外す音に怯えているんだろうか。シーツを握る指が、力を込めすぎて白くなっている。
「鋼の、力を抜いて・・・大丈夫だ。無理はさせないから」
「ん・・・・・・」
 先端を押し付ければ、息を呑む気配がした。ロイは陰茎に手を添え、充分にほぐしたそこに先走りをぬりこむ。亀頭の先でそこをなぞれば蕾にひっかかって、ともすればもぐりこもうとする。もうそこは充分にほぐれて誘うように口を開いているからだ。
「・・・・入れるぞ」
 限界を近く感じて、ロイは短く告げてエドワードの禁忌の孔へそれをわずかに押し込んだ。淫液のすべりをかりて、あっけないほどそこは簡単に先端を飲み込む。一気に突き入れてしまいそうになりながら、ロイは浅い抜き差しを繰り返した。
「は・・・・・っ・・・・・はっ・・・」
 喘ぐ魚のように、エドワードは呼吸を繰り返す。痛みと同時に、それでも快感があるのだろうか。出したばかりの子供の陰茎はまた腹につくほど立ち上がっていた。それを視界にとどめた瞬間、ロイは無意識にすべてを突き入れていた。
「ああああぁっ・・・・・!」
「くそ・・・っ」
 理性を手放し、本能のままに深くつきいれ華奢な腰を掴み揺さぶる。きつく締め付けられ、ロイは年甲斐もなくすぐにもらしそうになる。喉の奥で獣のように唸り、ねじこみ、ゆすりあげる。
 セックスとは、こんなものだっただろうか。
 こんなに理性を奪う凶暴な交わりだっただろうか。
 女たちが自分の体の下できゃあきゃあ喘ぐのを、軽蔑に似た乾いた眼でいつも見ていた。
 こんなことがそんなに気持いいのかと、冷静になって眺めている自分がいた。それははじめから、「そう」でしかなかったし、これからもロイにとってセックスなど、自慰ほどの意味も持たない排泄行為だったはずだ。
 それが、どうしてだろう。どうしてこんなに自分はみっともなく、この子供の体に夢中になっているんだろう。
 理性が全くいうことを聞かずに、本能という原始的な部分が衝動を突き動かす。喰らい尽くすように貪り、犯し、腰を振り、こんな子供をいとおしいと思いはじめている。快楽に素直に喘ぎ、痛みをこらえ、何も知らない体でロイの性欲を受け止めている子供がいとおしい。
 いままで自分が味わった感情は恋ではなかったんだろうか。
 この子供が与える感情は心地よく優しくロイをいやす。
 この子供が自分に与えるものが恋なら、いままで私は知らなかったんだろうな。
 視界を眩ませる光に似ているとおもった。
 全部を真白に染め上げて、何も見えなくさせるような。
「や・・・ぁっ・・・・!大佐、たいさ・・・っ」
「・・・・・・っ・・・・・・」
「・・・・・っもち・・・・い・・い・・っ・・・・!」
 粗相をしたように、シーツにぱたぱたとエドワードの精液が滴った。ロイが深くねじこんだまま中を弄るようにゆすると、その刺激にすなおに再びエドワードが精液を零す。ぐちゅぐちゅとかき回せば、無意識だろうかエドワードが自ら押し付けるように腰を揺らした。
「・・・・・・・中に出すぞ」
 ああそういえばゴムも装着する余裕がなかったなと瞬間思い、ロイは犬の様な姿勢の子供をいっそう強く揺さぶった。
 絶頂が近いのを感じる。ロイの肉棒はびくびくとふるえ、エドワードの中を刺激している。
「あーっ・・・・・!!」
 エドワードの悲鳴に唆されるように、脈動する。
 熱い液体をエドワードの胎内に零して、ロイは大きく息をついた。
 引き抜くと、陰茎に襞が絡みつく。くぷりと音を立てて、紅く口を開ける蕾から白濁が一筋こぼれてエドワードの白い内腿に滴る。ロイの腕が離れて、崩れ落ちるようにエドワードの体はベッドに沈んだ。大丈夫だろうかとロイが首を傾げれば、呼吸をにがしながらエドワードが潤んだ双眸でぼんやりとベッドサイドの明りを見つめている。唾液に濡れた口元が妙にいやらしく、ロイの目に映った。日ごろからピンクの唇はうっ血して、紅をさしたように紅い。かじりつきたくなるほどだ。
 指をもう一度蕾に押し込めば、そこはするりと受け入れてロイの指を濡らした。
「なに・・・」
「さて」
「・・・・・・・・・・・たいさ?」
「続きをしようか」
「・・・・・・・・なん・・・・・っ!・・・・やだ!もう無理・・・・」
 怯えたようにエドワードは体を縮めようとする。ロイは指を蕾から抜き、エドワードの足首を無理やり引き寄せ、組み敷く。
「まだ私は足りてないよ?私と付き合うなら、最低3回は頑張ってもらわないとね?」
「・・・・・・鬼かアンタは・・・・・!!や、やだって・・・・・・・・」
 うろたえたように逃げようとする体を押さえつけ、ロイは触れるだけのキスを唇におとした。ちゅっと音を立てたキスに、エドワードは今更のように顔を赤らめる。
「鋼のが先に煽ったんだから」
「・・・・・これ以上したらオレ、おかしくなる・・・・っ」
「・・・・・・鋼の」
「なに」
「それは男を誘う台詞だぞ。・・・・おかしくなってみたまえ」
「・・・・・しんっじらんねえ・・!なんなんだアンタ!最初はあんなにしらけた顔してたじゃねえか!」
「スロースターターなんだ」
 真剣な顔をしてそういったロイを、精一杯ににらむのだがいかんせん、快楽の余韻で潤んだ双眸ではいまいち迫力に欠けている。
「・・・・・・・・・・・・・」
「観念したまえ鋼の。夜は長いんだ」


「ゆっくり愛情を確かめようじゃないか」



 どうしてこんな男、とエドワードが思ったとしても無理からぬ話である。


***************

「少尉、これ。例のお礼」
 そっと手渡された現金に、すぐには思い当たらずハボックは首を傾げた。
「・・・・・・・金なんか貸してたっけ」
「違うよ。ほら、こないだ」
「ああ、ああ。あれか。んで、首尾は」
「うんオレの勝ち。アリガトな、少尉。助かった」
「で、大将なにしてもらったんだ?なんか買ってもらった?」
「う?うん、まあねー」
 にししししと笑うエドワードの笑みは、ハボックには無邪気な子供のそれにしか見えない。
「おかげさんで。また頼むよ」
 かわいいもんだなと、ハボックはほのぼのと思った。あの上司も、こんな子供相手にむきにならずにもっとかわいがってやればいいのに。いちいち賭けごとなんかして大人げねえな。無論ふられてなどいないハボックは最近公私共に充実していて、全てに対しておおらかな気持だ。
 だからこうして、たまに八百長の手伝いをしてやるハボックに悪気はない。
 手渡されたリアルな金額にそろそろ相手の腹黒さに気がついてもいい頃なのだが、ハボックは心底人がよかった。
「まあ、またなにかったらオレにいえよ。ちょっとくらいは味方してやっから」
「アリガト少尉。じゃ、オレそろそろ出発だから」
「おう、気をつけてな」
「うん。じゃあね」
 時間がかかるだろうと踏んでいたのだが、予想外にロイはエドワードの虜になりつつあるようだ。
 現に今も、ハボックとひそひそと言葉を交わすエドワードを親の敵のような嫉妬に狂った目で見つめている。
 正直先日の行為の後は恥ずかしさと体の痛みとめまいのするような快楽でエドワードも精神状態はぼろぼろだったのだが、どうやら相手はさらにぼろぼろの精神状態のようだ。せいぜい自分と同じ思いをして苦しむがいい。

「あんま侮ってんじゃねーよ」

 小さく口中で呟き。
 エドワードはもう一度いひひひひとわらった。