*注・・・・・・・・・・・にじゅっきんっていうかえぐいので、ほんとうに駄目な人は読まないほうがいい。にじゅうごきんくらいにしたい勢い。
夕暮れ時、誰もいない閉館した図書館の奥の個室に、結構顔は顔だけはかわいい、口の悪い凶暴で乱暴で横暴な15歳の部下が机に突っ伏したまま熟睡しているのを発見したら。
「・・・・・・どうしたものかな、これは」
閉館した図書館の鍵を借りて、いつでも自由に図書が閲覧できるのは、佐官の特権だろうか。けれどこうして訪れた先で、思わぬ人物発見をしてしまい、ロイは一瞬困惑した。
思わずロイは顎に手をあてて思案した。
@起こして、「もう閉館だからかえりなさい」という
A見なかったことにする
B悪戯する
最有力候補は、何度考えなおしてもBだ。
日ごろから悪態をつくことにかけては余念のない、このクソナマイキな小僧に一矢報いるチャンスではないだろうか。ロイは机に手をつき、子供の寝顔を見下ろす。ご丁寧にアイマスクまでして、ぴいぴい寝息を立てる子供の背中が、優しく上下していた。これはほんとに寝てるな。
ロイはにこにこ笑った。
「チャンスじゃないか」
きょろきょろとあたりを見回せば、司書机に無造作に投げ出されたハサミやロープやマジックなどといった、今のロイにとって大変魅力的な道具の数々が目に飛び込んできた。それらを一通りポケットにしまう。しばらくの逡巡の後に、ロイはロープを手に取る。本来ならば、いらない資料などをくくるために使われるそれも、ロイの手にかかれば立派な拘束具だ。具体的になにをどうするかなど考えないまま、ロイは投げ出されたエドワードの両腕を、そっと後ろ手に縛る。もし目が覚めたときに錬金術をつかわれては叶わないから、手の甲をあわせるようにくくる、念の入れようだ。硬く縛ったその結び目は、ロイ自身にも解けるかどうか自信はないほどのできばえで、ロイは声を押し殺して笑う。
さてどうしよう。
これでこの小僧の生殺与奪は私の手の内だ。
ありがちだけれど、顔に落書きでもしてやろうか。瞼に目を書くとか。鼻の頭を黒く塗りつぶすとか。ヒゲをかくとか。
「・・・・・・・・・・・・・・ん」
そのとき、ふとエドワードが身じろぎをした。ため息に似た吐息をついて、唇を薄く開く。綺麗なプラチナブロンドが一筋、下唇からこぼれそうになっている唾液に張り付いた。
その光景が何故だか色めいていて、ロイは思わず息を止めた。そうしたのは自分にもかかわらず、後ろ手に縛ったその姿が妙に淫靡なものに変わっていく。夕暮れの、穏かなオレンジが目をくらませるような赤に変わり、子供の白い頬を照らしている。夜に傾く気配が妙に濃密で、ロイは誘惑に逆らえずにいた。
触れれば。
どうなるんだろう。
それはとてもいいアイデアのように思えた。
性に関して、到底未発達としか思えないこの子供。
うろたえる様を想像しただけで笑みがこぼれる。
少しだけ。
ほんの、すこし。
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まるで甘い蜜に痺れたように意識がふわふわと定まらない。ここ二、三日ろくに眠っていなかったツケをいま払わされているらしい。体を起こさなければと思うのに、強烈な眠気がそれを妨げる。頬に掛かる髪が唇を擽るのを鬱陶しく思い、エドワードは右手でそれをかきあげようとして。
はじめて異常に気がついた。
「・・・・・・・・っ?!」
ぎ、と肩が軋んで妙な音を立てた。後ろ手に縛られているのだとは、すぐには理解できなかった。視界を覆うアイマスクのせいで、エドワードは暗闇にいる。ぞっと背筋の毛が逆立ち、乱暴に立ち上がった。けれど足がもつれて、床に無様に転がる。
「・・・・・・・・・なんだこれ!」
気配がある。何者かの気配だ。距離感もつかめず、誰なのかもわからないこの恐怖は、誰も想像すらできないだろう。裸で海に放り出されるのに似ている。
「てめえ、誰だ!これ外せ!」
歯をむいて怒鳴るエドワードに、何者かは答えずに沈黙している。冗談にしては度が過ぎていた。背中に本棚が当たるまで後ずさる。笑う気配に血が滾った。
「ふざけてんじゃねえぞ・・・・」
くそ、せめて目が利けば。覆うアイマスクを外そうとエドワードは顔を本棚にこすり付ける。気配がそれを察して、足音をさせながら近づいてくるのに、冷や汗が流れる。なにをされる。
(・・・・・・くっそ)
怯えを晒すことを拒もうとして、エドワードは唇を噛む。見えないということがこれほどの恐怖だとはおもわなかった。目を開ければ弟がいて、冗談だよ兄さんと笑っているだけなのかもしれないのに。今にも首元にナイフを突きつけられそうな、死の淵を覗くのに似た恐怖だ。
冷たい指先が頬に触れた。びくりと体を揺らして、大げさなほどエドワードは体を遠ざけようと暴れる。指先はなおもエドワードを追い、肩を掴む。
「離せ・・・・っ」
両足を無造作に繰り出して、蹴りつけようとするけれど上手くいかない。なんなく押さえつけられて、抱き上げられた。男だと、悟る。
「軽々しく人様をもちあげんじゃねーや!てめえオレを誰だと思ってやがんだ!ああ?!」
返事はかえらない。恐怖にかられて、めちゃくちゃに暴れるけれど効果がない。椅子におろされ、そのまま指先が不穏にエドワードの肌を辿った。シャツの裾から冷たい指が進入してそっとわき腹をなでる。声を出そうとした次の瞬間。自分の首筋に触れてきた生暖かいものが、唇だとわかって。
絶句する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・な・・・・ん」
唇がそうっと首筋をなぞるのに、悪寒と喉もとからせりあがる感触を覚える。
唇は耳たぶを食み、やさしく歯をたてる。耳元で、熱い吐息が耳口を擽り、ちゅ、と水音を妙に大きく聞かせた。今自分が何をされているのか。唐突に理解して、エドワードは恐怖に鳥肌をたてた。
「オレは男だぞ・・・・・!」
見たらわかることを叫んでしまうのは、ほんとうに動転している証かもしれない。男である自分にこんな真似を平然としているからこそ異常なのだ。身を暴かれる恐怖なんて、想像もしたことがなかった。当たり前だった。そんな対象に、この自分が該当するわけはなかったのだから。
今までは。
しつこく、首筋を嬲られて吐き気を覚える。
「くそが・・・・てめえ絶対殺す!」
歯の根の合わない震えた声で怒鳴っても、何の効果もないのだろう。男が喉の奥で笑うのがわかる。そうしている間にも男の指先がベルトにかかり、そこを寛げていく。腹を辿り、下着に忍び込んだ指先に、エドワードは抵抗して闇雲に暴れる。性器を握られる生々しい感触に、悲鳴を押し殺す。自ら触ることにも慣れていない部分を、他人に自由にされる不快感は例えようもない。
「・・・・・・っく」
気持悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
元来他人に触れられるのは得意なほうではない。あの気安い少尉が頭をなでるのも構えてしまうくらいだ。誰かもわからない男に、誰にも触られたことのない部分まで遠慮なく弄られて楽しいはずがない。けれど、心とは別に若い体が反応しはじめていることも事実だった。自慰の経験は、多くはない。その多くない経験の拙い所作で得た快感など、かすむような男の手管に、いつの間にか腹の底から痺れるのに似た疼きが生まれはじめている。認めたくなくて、何度も頭を振った。
「手・・・・はなせ・・・・」
声が上ずるのを押さえて、必死に押し出す。
いやだ。
こんなのは、厭だ。
屈辱と眩暈と快楽と憎悪と恐怖と殺意。逆巻く。
「・・・・・・・・・・・ぁ」
思わずこぼれた嬌声に、頭へ血が上るのがわかる。
あんな変な声。
あんな変な声、オレのじゃねえ。
あんな。
ねだるような。媚を含んだ。女みたいな。
そんなの。
ズボンが下着ごと両足から抜き取られる。下半身を晒される羞恥に、大声を上げたいのに、変な声がこぼれそうで恐ろしい。唇をかんで、両足を椅子の上に上げる。けれど男はそれを許さずに、足の間に割って入った。ゆるゆると括れを撫でられ、茎をなぞられる。すでに勃起した性器は触れるだけの愛撫ではもうとっくに物足りなくなっていた。感情とは別に、射精を望む体が、男の掌に擦り付けようと動くのを最後の理性の力で押し留める。
そんなまねをするくらいなら、舌をかんで死んでやる。
「てめ・・・・いい加減やめねえと・・・・・っ」
男の体温が触れていることが不快だった。けれど男は離す気は毛頭なかったらしい。強く握り締められて、息がつまった。頬に口付けられて、エドワードは顔を背ける。男の指先は、巧みにエドワードを射精へと導いてゆく。容赦なく。生理的な反応はどうしようもなくエドワードを翻弄した。
「・・・・・・・・ぁっ・・・・」
耐え切れずに、エドワードは精液を男の掌に零した。びくびくとゆれた爪先が男を抱え込むようになってしまうのは、自分ではどうしようもない。椅子の上という不安定な場所で、エドワードには縋るものは何一つ与えられなかったのだから。
「・・・・・・・・・・・・・ふ・・・っ」
荒い息を堪えて、ぶるぶると体が震えた。頬が紅潮しているのだろう。妙に熱い。
ごくり、と男が息を飲む音が響いた。
その気配に不穏なものを察して、エドワードは体を縮める。両足を抱え込もうとして、出来ず、男に両足首を掴まれて無理やり開かされる。射精直後で力が入らない体は、簡単に男の言うことをきいた。
「な・・・・・に・・・・・っ」
ふいに覚えた異物感に、全身に鳥肌が立つ。
指先を、胎内に差し込まれたのだと知る。本来受け入れるようにはつくられていない器官に、精液の滑りをかりて、捻じ込むように指先が忍び込んだ。痛みはない。痛みはないけれど、その感覚はエドワードを恐怖させるに充分だ。
本気だ。
本気で、こいつ。
オレを。
女の代わりに。
「やめ・・・・・・・やだ・・・・・・」
男は答えない。それが一層怖い。
「やだ・・・・・・」
アイマスクの奥で、恐怖に涙が滲む。
ふと頭の端を、あの厭味ったらしい上司が横切った。
(・・・・・・大佐)
ぐちゅぐちゅと、ゆっくり中をかき回される卑猥な音が、いつもはしいんと静まり返る図書館に響く。誰か助けてとおもう。けれど同時に、こんなことをされているのを知られるわけにはいかないともおもう。苦痛をまぎわらせようと意識を飛ばしたエドワードを、男の指が現実に引きずり戻した。痛みと違和感と圧迫感をこえて、不意に針で突き刺したような快楽の疼きが訪れて、エドワードを混乱させた。
「・・・・・・・・・・んんっ」
自分の呻き声が、どこか甘く聞こえたことに羞恥して、体をめちゃめちゃに動かす。椅子から転がり落ちてもいい。こんなことは耐えられない。苦痛も屈辱も、かまわない。でも。
あんな体の反応だけには耐えられなかった。こんな暴力に屈して、浅ましく反応することだけは。
耐えられないのに。
**************
ただの生意気な子供だと思っていたのに。
衝動を止められないほど青いつもりはなかった。けれどロイは、今更やめられるとは思えないほど、この小柄な子供の媚態に囚われてしまっていた。ただの悪戯のはずだったものは、今ではそれだけではすまなくなってしまった。苦痛と恐怖に怯える様を目前にして、かわいそうにと思う。そして同時に、そのあさましい肢体に欲情もする。
「・・・・・・・や・・・・・・」
か細く拒む声音は少女のようだ。快楽に我を忘れて、それでも逃げようとする足を押さえつけて、掲げる。子供の薄い胸板につくほど高く掲げ折り曲げて、体の全てを晒すはしたない姿勢をとらせれば、いやいやと首をふった。夕闇に照らされた下腹部は、ぬらぬらと精液で卑猥に光っていた。襞がぱくぱくと口をいやらしく開けて、ロイを誘う。
「・・・・・・もう、や・・・」
赤い唇が、そう言葉をつむぐ。誘われるままに唇をつけて、ロイは舌をさしこみ、上顎を舐める。顔を背けることを許さずに、深く口付ければ、エドワードの腰が揺れた。片手で自らの軍服のズボンを寛げて、肉棒を取り出す。既に猛ったそこを、秘所にあてがえば、その圧迫感に何事かを悟ったらしい。エドワードは恐怖に怯えて、体を硬くした。あやすように性器を扱くと、堪え続けた雫が床に滴る。絨毯が色を変えて、しまった。
「・・・・・・・離し、」
懇願を聞き入れずに、ロイはゆっくりと子供の襞に性器を捻じ込む。じゅ、と濡れた音をきかせて、散々慣らされたそこが簡単に先端を飲み込んだ。
「・・・・・・・・・・・いた・・・・・・」
痛みにエドワードが唇をかんだ。その仕草さえ艶めいていて。
ロイはそのまま腰を進める。椅子の上では逃げ場がないのか、エドワードは震えながら、男を受け入れるしかなかった。ゆっくりと肉を掻き分ける生々しい感触とともに、深く自身を埋める。吐息を、ゆっくりとつけば、そのあまりのきつさに瞬間達しそうな欲望を覚えた。
(たまらんな)
これは、そこいらの女など比じゃない。
衝動に負けて、ゆっくりと引き抜き、もう一度狭い場所を貫く。何度か繰り返せば、痛みに震えたエドワードの性器がゆっくりと立ち上がっていく。内からの快楽に、この子供が屈し始めていることを知った。
「・・・・・・・・・ひぁ・・・・・!」
じゅぷ、と泡立った音がロイを煽る。はじめはゆっくりだったはずの律動が、いつの間にか本気のそれに変わってしまっている。人形のように力をなくしたエドワードの体を、思うまま貪る。
「や・・・・・・やだ・・・・・・っ!」
悲鳴のような嬌声とともに、ロイの腹にエドワードの精液が飛散った。苦痛しかなかったはずの行為はいつのまにかエドワードに堪えきれない快楽を渡したらしい。そのことに、ふと口元が緩む。
かわいい。
かわいいな、と口付けようとした瞬間、ロイはエドワードの唇からこぼれたかすかな言葉に耳を疑う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たいさ」
ぎくりと背中を強張らせて、ロイは引き寄せようとした指先を止めた。気づかれたのだろうかと思いながら、すぐにそうではないことを知った。
「・・・・・・・・・・・・・たいさ」
既にエドワードの意識は朦朧としている。体に力をなくして、慣れない情交に意識を手放しかけている。
どうして今、自分の名をよぶのだろうとロイは、鼓動を早める。どくどくと血が沸騰するように、内側が熱い。射精をこらえきれずに、ロイは強く腰を打ちつけた。中に注ぎ込み、腰を捉えて、押し付ける。
「・・・・・・・ぐ」
ほとんど同時にエドワードが嘔吐した。ほとんど何も食べていなかったのだろうか、わずかな吐寫物がそれを証明している。汚れた口元をぬぐう気力すらないらしい。
どっどっ、と強く鼓動をうつ自分の感情に、惑いながら、ロイはエドワードがそのまま意識を失うのを呆然と見ていた。
**************
「大佐、目をあけたまま寝ぼけるのはやめてください。死ぬか寝るかどちらかにしていただけないでしょうか」
くるくるとペンを回して呆然としている上司に対する舌鋒は今日も一際鋭い。けれど対するロイは、ああとか、うんとか、適当な返事をするばかりで、目を開けたまま寝ている。
「・・・・・・・・中尉」
「なんでしょう」
「人生は後悔の繰り返しなんだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私はいま、とても悩んでいるんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で拳銃を取り出して弾の数を確認するホークアイを、同じく残業で居残っていたブレダがあわててとりなした。
「ちゅ、中尉!中尉、コーヒーでも飲みましょう!ね!大佐も疲れているみたいだし。ちょ、ちょっと休憩!休憩しましょ!ね!」
押し出すようにホークアイを、ブレダが連れ出したあと、残されたロイは深いため息をついた。
これは恋だ。
あのクソ生意気な子供に、恋をしてしまった。
だらしなく机に突っ伏して、ロイは駄目な自分を罵った。
「私はなんて駄目な大人なんだ」
口に出せば、ますますそのとおりで自己嫌悪に陥って、這い上がれそうもない。
ちょっかいを出した挙句、自分で自分を止められずに、縛り上げてあの子供を犯してしまうなんて。
よく考えなくても犯罪だ。強姦だ。変態だ。
意識を失う寸前にエドワードが呟いた自分の名を聞いたときに、心臓が痛み、風邪を引いたときのように皮膚が痛んだ。胸が何かでいっぱいになった。
順序を間違えてしまった今では、もう全てが取り返しがつかない。
あのあと、意識を失ったエドワードの情交の始末をしてやり、抱きかかえて医務室に運んだ。それ以来顔をみていない。そして顔を合わせる勇気もない。
「・・・・・・・・でもいえるわけがない。今更、君を図書館で縛り上げて犯したのは、この私ですなんて」
考えただけでぞっとする。どんな目にあわされるかなんて、想像もつかない。
そしてそれよりも恐ろしいのは、真実を知ったときエドワードが浮かべるであろう、軽蔑の表情だ。
「・・・・・・・嫌われるなんて、耐えられない・・・・!」
アンタ最低だな。くず。ひとでなし。アンタなんかを好きだった自分がゆるせねー。死ね。うんこ。生きる資格がない。喋るな。空気を吸うな。
そんなエドワードを想像するだけで胸がきりきりと痛んだ。胃が破裂しそうだ。
「あー・・・・・・!」
どうしようと、ロイは頭を抱えた。
執務室の扉の向こうで、かの金髪の子供に独り言を全部きかれているとも知らずに。
ロイマスタング、命日。
終