今思えば不吉な予兆は、その日の朝すでにはじまっていたように思う。
 その一。目覚めてすぐ見たものは(アルフォンスが鎧の中に隠していた)クロネコだった。
 その二。外に出れば烏の大群に頭をつつかれて髪の毛をむしられた。
 その三。靴紐が全部いっせいに千切れ飛んだ。
 その四。エドワードの顔を見た子供たちがいっせいに号泣した。

 8月末とはいえまだまだ残暑の厳しい最中、なぜか悪寒が体中を包むけれど、エドワードは頭を一つ振りこれは気のせいだと硬く決め付ける。
 占いやのろいや霊なんてばかばかしい。そんな乙女ちっくなモノはウインリィにでもくれてやれ。そもそもエドワードは科学者だ。科学で解明できないことなど、何もないのだと不愉快げに地面を蹴りつけた
 今日は軍部で書類整理だ。面倒くさいなりに、何か新しい書面が見つかるかもしれないともう一度気合を入れなおす。アルフォンスには、すぐ帰ってくるとつげてエドワードは一人宿を出たのだ。
 そうだ、不吉な予兆なんてただの偶然の合致による思い込みだ。
 迷信だ。そんなものに惑わされるのはオカルトにかぶれた女子供くらいなものだ。


 エドワードは一つ忘れている。
 自身のそういった不吉な予感というものは、これまでかつて外れたことはないということを。





***********






「私は本当に錬金術には疎くて・・・。旦那様が生前集めていた書物の価値も意味も全くわかりませんの。それで、大変ぶしつけかとは思ったのですけど、マスタングさんのお名前を思い出しまして。なんでも、うちのものがかつて東方に勤めていた折には大変お世話になったとか。あのう、本当に申し訳ないのですけど、もしよろしかったらどなたかうちの書架を検分して書物の処分をお手伝いしていただけないかと」
 おっとりと、老婦人は言いながら小さな顎に右手を添えて小首を傾げてみせた。
 ほんとうに軍や錬金術とは無縁の世界で生きていたんだろうなと、ぼんやり老婦人を視界にとどめていたエドワードは、母親が生きていればこんなふうな穏かな年のとりかたをしたんだろうかと思う。書類の整理をしながら、何気なく上司と老婦人の会話に聞き入っていた。
「本当ですか!!」
 がたんと椅子を蹴るような乱暴な仕草は彼らしくない、とエドワードはその時はじめて視線を上げた。
「本当に私たちに書物の検分を任せていただけるので」
「ええ。私ほんとうにこちらさましか心当たりがございませんの。錬金術の書物は、普通の本屋では内容が難しくて正確な価値の算出が出来ないとか。いいえ、売るつもりはないんです。どなたか、本当に価値がわかる方に引き取っていただければと思いまして」
「それは、あの、ご主人のいままでの研究資料までもふくめて、でしょうか」
「ええ。もう、あの屋敷を引き払おうと思ってますの。思い出は沢山詰まっているのですけど私だけではなにぶん広すぎて。思い出がたくさんのこりすぎていて」
 寂しそうに笑う老婦人とは対照的に、らしくもなく興奮したような仕草で、ロイがエドワードに声を掛けた。
「鋼の。よかったな」
「・・・・・・・・・なにが?」
「こちらのなくなられたご主人というのは元医者で、あのマルコー氏の師匠ともいうべき高名な国家錬金術師で」
「・・・・・マルコーさんの?」
 そのなまえは、エドワードの記憶に新しい。賢者の石を、不完全とはいえ錬成した人体錬成の権威だ。
 しかも、その師匠ともなれば、いやがおうにも期待は高まる。
「・・・・っで!生きてるときにそういうのおしえねえんだ!!」
「ごめんなさいね。うちの主人はそりゃあもう、ものすごい偏屈の錬金術オタクで。軍の方にはだれにもいまのお屋敷の住所を教えなかったのよ。隠遁生活を満喫するといって」
 思わず乱暴な口調になったエドワードに、やわらかい響きで彼女が言葉を重ねた。
 そうかこの人は最愛の人をなくしたばかりだったと、エドワードは神妙な表情になる。いつも興奮して目の前が見えなくなるのは自分の悪いくせだ。叱られるよりもよほどこたえて、エドワードは小さく頭を下げた。
「あの・・・・・・すいません。オレ考え無しで」
「いいのよ。私だってあんな口やかましい人、いなくなってせいせいしてるんだから、気なんて使わないで」
 とてもそうは見えない、翳った笑顔にエドワードはうちのくそオヤジが死んだときに果たしてこんな風にその死をいたんでくれる人はいるだろうかと思った。
 すくなくともそれが自分ではないことだけは確かだ。
「もし、あなたのお役に立てるようなら、うちの本を見に来ていただけるかしら。ね?」
「是非、ひきとらせてください!」
「元気がいいのねえ。こちらのお坊ちゃんは、マスタング大佐のお子様ですの?ほんとに元気がよくて利発そうで。うらやましいわ」
 さり気なく爆弾を落としておいて、彼女はにこにこと笑った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、彼は」
「じゃあ、いつでもよろしいからいらしてくださいましね。住所はこちらのメモに」
「あ、はあ・・・・」
「よろしくおねがいします、マスタング大佐」
「ロイでいいですよ。あなたのような美しい方になまえを呼ばれることは私の歓びですから」
 すばやく立ち直ったロイは、優雅に一礼をしてみせる。
 立ち直れないエドワードは壊れた操り人形のように頭を下げた。
 ぱたんと扉が閉じ、ロイはあきれたようにエドワードに目を向ける。
「そんなにいやかね?鋼の」
「アンタと親子になるくらいなら、人間やめるね!!!」
 おぞましそうに体を抱えるエドワードには悪気はない。心底そう思っているだけだから、ある意味素直なだけだといえる。
「そうか折角明日は非番で、車を出してかの屋敷まで連れて行ってやろうと思ったのになあ。そうかそうか。重たい書物を抱えて、ここからはるか山を越えて谷を越えて、そうか、徒歩で!徒歩で!大変だなあ!!まあゆうに5千冊はあるというからなあ!まあ一人でもてるだけもって往復するというのならば、無論私に止める権利はないがね。いやあ、元気だなあ。このクソ暑い中を、何往復するつもりやら。まあせいぜい一ヶ月でも二ヶ月でも掛けて頑張ってくれたまえ。車で行けば一度ですむのだがなあ。この私も書籍の検分を手伝ってやろうかと思ったが。いやあ残念だ。ん?なんだね鋼の、そのぶっさいくな顔は。言いたいことがあるならばはっきりいいたまえ?」
「アンタがもし蟻なら迷うことなく今すぐ容赦なく間隙なく20回は踏みにじるのになって」
「うん、わかった。それではせいぜい頑張りたまえ」
 整った容貌が嫌味たらしさを倍増している。
「く・・・・・・!手伝って、くださ・・・・・・」
「きーこーえーんーなー」
「手伝ッテクダサイ・・・・」
「よろしくお願いします大佐殿」
「・・・ヨロシクオ願イシマス大佐殿」
「一生大佐殿に誠心誠意おつかえします・・・・・てわかったわかった!鋼の!こんなところで機械鎧を振り回すな馬鹿者!!」
 




「・・・・・・もしどちらかが死んだ場合、痴話げんかの愛憎の果ての禁断の愛の刃傷沙汰だと上には報告しますがよろしいでしょうか」
 ぎりぎりと刃を挟んで相克しあう二人を見てのリザの、第一声に同時に反論が帰った。


「よろしいわけがねえー!!」「よろしくない!!」



**************************








 

「やっぱ呪われてたんだ・・・・・!!」
「なにを非科学的な。この暑さで脳が煮えたんじゃあるまいな?あ。ほら、耳から脳みそがたれてるぞ」
 29歳の低俗なからかいに、もはや反論する気力もなくクールな15歳は顎に滴る汗をぬぐった。車内の温度を知るのが怖くて、エドワードは設置された気温計に目を向けることが出来ないでいる。
「・・・・・・・・日付が変わる前に書架を全部検分できたのはどっちかっつうと、よく出来たほうかもしんねえけど、バケツひっくり返したみたいな大雨になるわドンドコドンドコ鼓笛隊かみたいな雷がおちまくるわ、タイヤはぬかるみにはまって動かんわしかも微妙に後ろのドア閉まってねえし!!」
「あはははははははは」
「笑い事じゃねえだろうがー!!」
 ギュルルルルル!とタイヤは空回りを繰り返している。エドワードはたまらず豪雨の中に飛び出して、後ろの席で水浸し寸前の本の山をいままで自分が座っていた場所に移しかえる。
「おいおい鋼の。そんなことをしたら君の乗る場所がないがどうするつもりだ?」
「だからって本濡らすわけにはいかねえだろ!折角譲ってもらったのに!」
 辺鄙も辺鄙、こんな山の中では店も宿もない。車を出してもらったのは正解だったが、その肝心の車が立ち往生してしまっては元も子もなかった。車の中で一晩を明かすことも考えたのだが、これではエドワードの座る場所すらない。
「そもそも君が無理だというのに本を詰め込むから」
「しかたねえだろ!こんな山奥、そうそうこれっかよ!!」
「あのご婦人は歩いてきたらしいぞ」
「そんな何の足しにもならねえ健脚自慢を話してる状況じゃねえだろ!TPOを考えろ!!」
 豪雨にかき消されそうになりながら、声を張り上げる。畜生、まさかここでずぶぬれのまま一夜を明かすわけにもいかねえし。
 どうしようと頭をめぐらせて、エドワードは深い森の奥にともる小さな明りを見つける。
「大佐!大佐大佐!」
「なんだね?」
「あれ!みて!明りじゃねえ?車ここにおいてさ、ちょっと泊めてもらおうぜ」
「・・・・・そうだな。今日はもう無理か」
 そうしようと車をおき、二人は雨と闇で最悪の視界の中明りを目指して走り出した。




 深夜、ずぶぬれで飛び込んできた不審な軍人と子供の組み合わせに文句もいわず、むしろにこにこしながら中年の女性は部屋の鍵を二人に渡した。飛び込んだ先が、幸運にもホテルだったことは二人を少なからず安堵させる。民家であれば、軒下を借りたいといっても断られる可能性100%だからだ。
 薄暗い廊下はぎしぎしと軋む。古い宿だが、この際文句もいってはいられなかった。
 ずぶぬれで体は冷え切って、手足の疲労はピークに達している。熱いシャワーに横になれる寝床さえあれば、旅なれたエドワードにとってはこれ以上望むべくもない。
 107とナンバープレートのかかる部屋に、ロイが鍵を差し込む。背後でがたがたと震えながらエドワードは自らを抱きこむように両手を回している。
「・・・・大佐!まだ?!」
 扉は開いたのだが、ロイはなぜだろう、立ち尽くしたまま動かない。痺れを切らしてエドワードが、上司を押しのけるようにして室内に飛び込んだ。
「ううー・・・・さみい・・・・・。お、しかし暗いなー、照明がなんだこれ・・・ピンク?壁紙がハートだぜ、趣味わりいな・・・・おわ!!なんだあのバスルームガラス張りじゃねえか!入ってるとこまるみえ。ベッドも丸くて可愛いなーって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい!!ちょ、ちょっと大佐・・・っこ、ここって」
「・・・・・・・・・・・・・うん。ラブホテルだな。まごうかたなくラブホテルだ。この上なくラブホテル」
「ら・・・・・・っ!連呼すんじゃねえ!!ちょ、ちょっと鍵貸せ!!」
 呆然としている上司の手から鍵を奪い取る。銀の鍵の先につけられた大き目のキーホルダーにはでかでかと、「ホテルラブ&ハニー」と妙なのたくったような字体でホテル名がほりこまれている。
「まいったな。『制服での出入り禁止』候補ナンバーワンだ」
 そうか、先ほどのホテルの案内人のババアがやけに笑ってると思ったがこういうわけかとエドワードはぎりりと奥歯をかみ締めた。男同士でこの年齢差だ。さぞド変態のカップルに思われたことだろう。そう思えば今更ながら、頭に血がのぼった。
「うん。まあ、今日はしょうがないだろう、鋼の。気にすることはないよ」
「べえっべべべべべべべべつになあ!気にしてなんかなー!!」
「シャワーでも浴びて眠ればいい」
「おうっ!そうだなー・・・て、あのバスルームでベッドでか???!」
「鋼の、声が大きい」
 しい、とロイは声を潜めて色をなくしたような白い人差し指をゆっくりと紅い唇に押し当てる。いうまでもなく、ロイもずぶぬれだ。その漆黒の髪から滴った雫は頬を伝い、そして唇を伝う様になぜか妙に目を奪われてエドワードは一瞬意識を飛ばしていた。
「鋼の?」
「・・・・っ・・・・や・・・・っなんでも!!なんでもねえし!!」
「だから、声が大きいと」
「ご、ごごごごごめんっ・・・・・!」
(なにを意識してんだオレは!!ばかか!!)
 途端にこんな場所で二人きりなのだということが、この上なく恥ずかしく思えて、エドワードは所在無く右手で自身を抱くように左の二の腕を掴んだ。とりあえず、コートでも脱ぐかと絞るほど濡れてへばりつくコートを脱ぎ捨てる。今日は下にタンクトップ一枚を着込んできた。夏らしい白のそれも、すでに濡れてぐちょぐちょだ。きもちわり、とへばりついたタンクトップの端を人差し指でつまむ。
 ふと視線に気がついてエドワードは顔を上げた。
 ロイが微妙に自分の体を見つめているのに気がついて、エドワードは何気なく自分の体を見下ろした。
 なにか変なもんでもついてるのか?と一瞬思い。
「・・・・・・・・・っ!」
 ばっ!と両手で胸元を隠すように自身を抱きしめる。
 白いタンクトップに透ける、自分の乳首が赤く立ち上がっていたことに気がついたからだ。
 自分の咄嗟の女のような仕草も恥ずかしく思えて、エドワードは上司に向かって怒鳴る。
「どこみてんだっつうの・・・・!変態かテメエは!」
「・・・・・・・・なんで今日に限って白いタンクトップなんだ」
 ロイは口元を右手で覆い、密かに嘆息している。そのため息の密やかさに、エドワードも息を呑んだ。すでに頬は紅潮している。
「・・・・・・・・・・いかんな」
「・・・・・・・・・・・・・・な、なにが」
「こっちの話だ」
 ロイは眉を寄せて何事かを思案しているようだった。エドワードの心臓は、もはやどくどくと激しく脈動を繰り返している。指が震えているのに気がついて、エドワードは強く拳を握った。
 心臓がいたい。先ほどの寒さが嘘のように体が火照っている。エドワードはどうしたらいいのか途方にくれていた。自分の体の反応の意味もわからなかったし、それいじょうに目の前の上司がなにを考えているのかはもっとわからない。
 こんな場所、知識のうえでは知っていても当たり前だが実際に入ったことなどない。
 ただなんとなく、ここがナニをする場所なのか、はおぼろげながらわかっていて。
 男同士なんだから意識する必要はないんだと言い聞かせても、エドワードは何せまだ経験値0好奇心100の15歳だ。混乱するなというほうが無理だろう。
「鋼の」
 びく!と体をゆらして、思わず「はい!?」と普段は使わない敬語が飛び出す。
「シャワーを浴びておいで。体が冷えたろう。私はあとでいいから」
 ロイはにこりと笑い、シャワー室を指差した。
「・・・・・・・・・・・・・・や、オレは・・・・・いい、かも」
「どうして?」
「べ、べつに冷えてねえしー・・・・なんか疲れたし。もう寝たい、かも」
「・・・・・・・・・・恥ずかしいから?」
 囁きに顕著に反応してエドワードは俯いた。図星だったからだ。
 だっていま、あんな丸見えの場所で、シャワーなんか浴びたら。
 だから。
「恥ずかしいとか、別にねえけど・・・お、男同士だしっ」
「そうかな。私は恥ずかしいな。・・・・・・・君に見られたらと思うと、恥ずかしい」
 一歩近寄られて、不穏な空気を察知して思わずエドワードはあとずさる。
 そうしていつの間にか壁際に追いやらて初めて顔を上げた。
 そこにあったのは、いつもの意地の悪い笑顔でもバカ話をするときの笑顔でもない。
 ほとんど直感で、エドワードは思った。
 

 女を口説くときの顔だ。


「・・・・ちょ、ちょっと、た、大佐」
 うろたえて視線を漂わせるエドワードの顔の両側に、ロイは掌をついた。逃げ場所をなくされて、エドワードはどうしようもなく唇をかんだ。
「お、オレ男なんだけど」
「うん。知っている。鋼の、いままで誰かと付き合ったことはあるか?」
「ね、ねえよ、そんなの・・・・っ」
「そうか。じゃあ、私がはじめてになるわけだ?」
「は、ははははははじめてって。どういう」
 意味だ、といおうとして。
 ロイの顔がエドワードの唇から数センチ離れたところで止まる。
 これはあれだろうか。
 口付けられるんだろうか。
 間近でみる上司の顔はやはり整っていて、エドワードは恥ずかしながら見惚れてしまった。すっきりとした目元に長めの睫、小さな顔に、肌はつるつるでエドワードのそれと比べても大差ない。それに何より、醸し出された色香は百戦錬磨の二つ名にふさわしく、エドワードごときでは太刀打ちできない。
「キスしても?」
 吐息がかかるほど間近で、かすれたように囁かれて。
 ほとんど無意識に、エドワードは頷いていた。



 ゆっくりと重ねられた唇は驚くほど熱かった。チュ、と小さな音を立ててそれが一瞬はなれ、すぐに甘えるように角度を変えて再び重ねられる。こわばる唇をついばむようにくわえ、舌先でくすぐり、また離れてはすぐ吸い付く。それを繰り返すうちに、どんどん深くなっていく。唇を合わせることが、こんなに気持いいなんて。
(きもち・・・・・い)
 何時しか、エドワードも夢中でロイにしがみついていた。歯列をわられ、怯えたような舌を強く吸われて、両足ががくがくと震えた。その体を抱きすくめられさらに口中深くを犯される。飲みきれない唾液が口の端からこぼれて首筋にまで滴った。
「・・・・・っふ・・・・・・ぁっ」
 やがて体の奥深く、炎がともるように疼き始める。未知の感覚にエドワードは怯えて、さらに強くロイにしがみつく。顎をとらえられ、口付けは繰り返される。
「・・・・まっ・・・・・・た、大佐、まっ・・・て」
「待たないよ、鋼の。キスの時には目を閉じるものだ」
「だ、だって・・・・!なんか、へんっ・・・・・変なんだって・・・・・!!」
 悲鳴に似たエドワードの声に嗚咽が混じるのに気がついて、ロイは顔を上げた。
「変とは?」
「や、なんか・・・・・・・・あ、あっこが」
「あっこ?」
「と、トイレなのかも!だってナンカ、変なんだ!!」
 腰が引けたエドワードに何か思い当たったらしい。ロイは、にこりとわらい、やはり水で張り付いたエドワードのズボンのベルトに手をかけた。
「ど、どこさわ・・・・!ちょ!大佐」
「ここが」
 ロイの、手の甲をエドワードの下腹部に何気なく擦り付ける仕草に、まるで痺れるような深い快感を覚えて。
「疼くんだろう?心配することはないよ。男は皆そうなる。・・・・・・・射精の経験は?」
「わ、わかんな・・・・・こんなん」
 うろたえるエドワードにはすでにロイがなにを言っているのかはわからない。もどかしくて、震えながら右手の指先をくわえて必死に快感をやり過ごそうとしている。
「・・・・・・・・やらしいな」
「・・・・・っんん」
 ロイの指が子供のズボンを引き下げた。すでに立ち上がったエドワードの果実は、濡れた下着がへばりついて、衣服の上からもその形をあらわにしていた。ごくりとロイが息を呑む。華奢なエドワードのそれは、ロイのものとは全く別の器官のようだ。
「大佐、大佐大佐・・・・っ、オレ変・・・っねえ、やだ、ねえ!」
 たっていることすらままならなくなってきたエドワードの体を抱きかかえ、ロイはベッドにおろす。
「大丈夫だ。先に一度出すか?それともキスがいい?」
「わかんない・・・っ!した、変・・・・っさ、さわって・・・・っ」
 もじもじと両のうち腿をすり合わせるようにして自らのモノを刺激する、子供の痴態にロイはもう一度息を呑んだ。誓って、はじめは冗談のつもりだったのだが。
 冗談では終わりそうにもない。
 指先でそっと下着のうえから未熟な果実をなぞれば、自らねだるように腰を揺らしている。
 幾度か指でたどるだけで、そこはこぼしそうに蜜を孕んだ。
 押し付けるように刺激すれば、下着の中はにちゃにちゃと粘る。これはけして雨のせいだけではないだろう。下着を押し下げれば、ピンク色の性器がはじくようにそこから飛び出てきた。先端はすでにぬるついて、ピンクの照明を照り返している。
 限界がちかいなと悟り、ロイは自らのズボンのチャックを押し開け肉棒を掴む。
 夜は長い。
「はじめは、一緒にいくか?鋼の」
 言葉の意味すらまともに理解できずにこくこくと頷くエドワードはかわいい。いつもこんなに素直ならなとロイは思いながら、自らの性器を子供のそれに押し付けた。
「ひゃ・・・・・・!や・・!なっ、なに」 
 それには答えず、子供の華奢な両足を掴み、淫猥な動作で腰を動かす。ロイのそれもすでに硬く立ち上がっていて、子供のそれを刺激するには充分だった。そしてエドワードの先走りが二つの性器の間のすべりをよくしている。ねちゃねちゃとした卑猥な音に耳をふさごうとし、エドワードは失敗した。
「ぁっ、あっ、あっ・・・・!」
 浅い刺激を何度か繰り返し、そして男にその二つの性器を握りこまれエドワードは今度こそ悲鳴を上げた。
「やだ・・・!やだぁ!大佐っ、は、はなし・・・・・・・・・なんかでる・・・・!・・・・・・・ーーーっ!」
 ぴしゃぴしゃとエドワードの薄い胸板の上に二人分の精液が散った。粘る、その液体が赤く立ち上がる乳首に絡み付いて、この上なく淫靡だ。
 はじめての絶頂が与える快楽の余韻に、エドワードは体を痙攣させている。ほとんど意識を飛ばして、シーツを掴む。精液が体の上をすべり、シーツに染みを作った。
「鋼の・・・・?これで終わりじゃないぞ?」
 初心者相手にもかかわらず、手加減するということを知らないロイは、大人気ない。
 にっこりと笑い、そして宣言する。
「折角のラブホテルだ。満喫しようじゃないか?」
 

 初体験が上司でしかも同性だなんて、誰にいえるだろう。










「わ、にいさんみてみて!今月の占い!にいさん、運命の恋人現るだって!千年に一度の恋!あなたは今週運命の人と結ばれます。一生添い遂げる伴侶となるでしょうだって!すごいよすごいよ!兄さんの運命の相手って誰かなあ?!」
「アルフォンス、その占い師の名前は?」
「・・・・・・・しってどうするの?」
「殺してくるに決まってんだろ?」
 天中殺か厄年か、とにかく自分の人生において、最大の不幸が現れましたならまだしも。
 運命の恋人だと? 
 エドワードは痛む腰を摩りながら呪わしく、拳をテーブルにたたきつけた。
 雰囲気に流された自分も悪いが、それをいいことに未成年の部下の貞操を奪うとは、ほんとうにあの男の脳の中身はどうなってるんだ。脳みそのかわりにウジがつまっているに違いないとエドワードは思う。
「ぜったいにぶっころすからな・・・・!」
 どうしてみも知らない占い師をそこまで憎めるんだろうと、アルフォンスの狂人を見るような胡乱な視線にも気づかず、エドワードはかたく誓った。