久しぶりだから二人でゆっくり食事でもしたいと耳元で囁かれて。
 不覚にもエドワードの背筋の毛はぞわぞわと逆立った。長く会えなかった恋人同士であれば当たり前の反応なのかもしれないが、何しろ自分は15歳の恋愛素人で、相手は百戦錬磨の玄人だ。
 計算づくの行為に怒りを覚えると同時に、抗いようもなくイエスと答えた。



「ほら」
「ん」
 こうして二人でいるときは上司と部下という立場が逆転する。かいがいしくエドワードの皿に、運ばれてきたばかりのサラダをよそうロイマスタングの姿は、知らぬものが見れば兄のようだ。実際には上司と部下、男同士、未成年15歳と29歳、というさまざまな困難を乗り越えて結ばれた(爛れた肉体関係もすでにある)、立派な恋人同士なのだがそれを一目で看破するには、あまりに難解な組み合わせである。
「これがすきだっただろう?しっかり食べたまえ」
「ん」
 湯気を上げるシチューを差し出され、エドワードは上の空で受け取る。エドワードの視線の先をたどり、ロイは自分の手元にたどりついた。
 ワイングラスに注がれたアルコールのかおりにいたく興味を引かれたらしい。
 その好奇心の強さは流石と言うべきだろうか。
「呑んでみるかね?鋼の」
「べつにー。ただ、どんなもんかなーって」
 その言葉の割には、ロイの手元のワイングラスを覗き込むようにしている。こういうものはたいてい父親が面白がって子供に飲ませるものだが、そういえばエドワードが母子家庭といっても相違ないような家に育ったことをロイは思い出した。
「まあ、鋼のにはまだはやいな。オレンジジュースがお似合いだ」
 にやりと笑って、ワイングラスを視線から外すように持ち上げてみせれば
「んだよ、子ども扱いすんなっていってるだろ」
「アルコールの味も知らないようではやはり子供だよ。こんなにおいしいものを知らずにいるのだから、子供はかわいそうだな。早く大人になりたまえ」
「そんぐらいオレだってのめるっつーの!酒がのめるかどうかで大人か子供かきめられんのかよ?!ちょっと貸せよ」
「いや、鋼のには無理だろう。口に入れるだけで噴出してしまうんじゃないだろうか」
 内心のわくわくとした浮かれた気持を必死に押さえ込み、笑う口元を歯を食いしばることで耐えながらロイマスタング29歳はわざとらしくもワイングラスを掲げて見せた。
 もちろん下心100%未成年者への配慮0%という、自分の心に素直になった結果の行いだ。
 はじめは本当に、酒を飲ませてべろんべろんにしてしまって無理やりホテルに連れ込もうとか、酒を飲ませてべろんべろんにしてしまって常日頃からやりたかったあんなことやこんなことをやりたい放題してしまいたいとか、そんなことを思っていたわけではない。
 耳元で囁いただけで真っ赤になる、純粋で、そういうコトに異常に興味があるであろうお年頃のエドワードを困らせないように紳士らしくベッドへ誘うつもりだったのだ。
 けれど、こんなふうにすぐむきになる、かわいい恋人。
 これを利用しないと男が廃るのではないだろうか。
「やめておきなさい。君にはミルクがお似合いだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 その言葉が決定打だったらしい。
 鋼のにミルクは禁句だと知っていてあえて引き合いに出したロイは、確かに駆け引きに関しては玄人だと言えよう。29歳で大佐に昇進した手腕は伊達ではない。もし軍を退いても口先三寸で生きていける自信は充分にある。
 エドワードは無言でワインのビンをひっつかみ、一息に口につけて煽った。
 ラッパのみ、という単語を知っていての行いかどうかは定かではない。
「は、鋼のー。やめたまえやめたまえー。そんなに一気に飲んではいかんぞ」
 熱心さをかけらほども覗かせない声音で、ロイは笑いをこらえるあまり折角の美貌をいびつに変形させている。周囲の客が「あのテーブルって・・・」と異常に気がつきはじめたことも勿論眼中にはない。
 ぶはー!と丸ごと飲み干し、勢いをつけてテーブルに空瓶を置くエドワードは、無駄に男らしい。
「おえー!」
 ロイの期待通り、ぶさいくな声を聞かせてエドワードは一気に顔を火照らせた。
「すっげ、変な味!これがうまいかー?」
「うーん、やはり子供には味がわからないのだろう。こっちのワインは今のと違って少し甘めで、かおりが格段にいいんだが、君には違いなどますますもってわからないだろうね」
 ロイは、もう一本注文していたワインのビンをさり気なく差し出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 息を呑んで見守っていた周囲の客が、思わず拍手喝さいするほどの見事な本日二回目ワインのラッパのみをみせてエドワードはこう叫んだ。
「オラー!もういっぽんもってこぴー!!」
 かんだ。
 かんだわ。と周りの紳士淑女の突っ込みももはや耳には入らない。
 飲みすぎては勃起できなくなる・・・!と経験上男の複雑な生理に詳しいロイが青くなるほどの飲みっぷりだ。
「は、鋼の、本当にもうそろそろこの辺で・・・・!」
「はひ?なにいってんらー!チョウおいひい。たいさもいいから飲め・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っぷ」
 不吉な語尾にロイは固まる。
 噴出5秒前。





*********





「全く。だから止めたのに」
 止める振りで煽ったことも忘れて、ロイはぶちぶちと文句をたれている。あのあと綺麗さっぱり噴出したエドワードは、もう一度ワインを飲みなおして至極ご機嫌だ。真っ赤になって、ふらふらとする足元は15歳らしくない。街灯の少ない裏路地という状況も手伝って、その有様は立派な一流の酔っ払いだ。
「いいじゃんー!はいたらすっきりしたー!まだまだのめそ。大佐のゆーとーりだった!アルコールっておいしーのな!」
 なにが楽しいのか異常にけらけらと笑いながらエドワードはロイにしなだれかかる。ふとそのアルコールの染みた恋人の吐息に、不覚にも下半身が反応してしまいロイは思わず前かがみになった。
「・・・・・・わ!」
 全身を預けていたロイがいきなりかがんだために、エドワードはバランスを崩してそのまま地面に激突する。当然ロイも共倒れだ。
「もー!突然かがむな!」
 抗議を受けるが反論しようもない。ロイはそれでもささやかに抵抗をしてみせた。
「そもそも鋼のがわるい。子供のくせに飲みすぎて」
「あー?じゃあさー・・・・」
 にやり、と人の悪い笑みを浮かべ、エドワードはロイの袖を思い切り引く。大人の頭をかき抱くように押さえつけ、子供は耳元で囁いた。
 昼間のお返しとばかりに。
「・・・・そのコドモにワルい事教えてる大人は誰なんだよ?」
 その声に欲情の響きを感じ取って、ロイは自分のたくらみが成功したことを知る。
「・・・・・・・・・ホテルにいくか?鋼の」
 ロイの熱のこもった双眸を間近で見つめ返したエドワードは、うろたえながら両手で制服の胸板を押した。その手をとれば、力なく抗ってみせる恋人は世界中の誰よりもかわいいと断言できる。
「・・・・んなことゆってねーだろ」
 ぷ、と頬を膨らませ、アルコールのせいだけでなく眦まで紅くしてそっぽをむくエドワードが誘っているようにみえて、自分でも驚くほど甘く胸が疼いた。
 事実は、当たらずとも遠からず。
「・・・・・・ふたりきりになりたい」
 急くなと戒めながらロイがそう囁けば、すぐに潤んだ金の瞳に見上げられて。
「・・・・・・・・・・・・別に、いいけど」
 触れたお互いの掌の熱が証だ。
 今すぐにでも抱きたい衝動をおさえ、ロイはエドワードを抱えるように立たせる。
「実はこの少し先に宿をとってある」
 用意周到さを笑うならば笑え。
 この体を自由に出来るのならば、なんだって、どうだっていいのだから。
 エドワードが小さく頷くのを認め、内心快哉を叫びながら、ロイマスタングは華奢な体を今一度強く抱いた。





 適当に選んだ宿は、壁も薄い古びた安宿だった。けれどそれがいっそう淫靡で、体のうちに炎の様にともった性欲をかきたてる。
 ドアを開けるのももどかしく、入るなり壁に押し付けて赤に染まる幼い唇を奪った。舌でゆっくりと歯列を割り、怯えた子供の甘い舌に絡めて、なんどもねぶった。
「・・・・・・んん・・・っ」
 呻き声にすら欲情する。
 指を絡めて、抵抗しようとする両手を封じて、いっそう強く唇を押し付けた。飲み損ねたはずのアルコールが伝播したんだろうか。恍惚と、確かにロイは酩酊していた。
「鋼の・・・・・鋼の」
 何度も繰り返し名前を呼ぶ。
 離れていた分、いつも乱暴に肌を合わせる自分を厭いながらも、すでに淫らな想像にロイは囚われている。
 まって・・・大佐、と哀願に似たエドワードの声は、誘っているようにしか聞こえなかった。
 体を離し、軍服の襟を緩める。その仕草を見とれたように見上げるエドワードの息も荒い。口の端に光る唾液のあとがいやらしくロイを、口付けへと誘う。
「鋼の、君の体がみたい。・・・・・・ここで?それともベッドで?」
 聞いてやるのはせめてもの優しさだ。
 ベッドへいく間も惜しいほど、狂おしく欲情しているのだから。
 ベッド、と小さく答えエドワードはうつむいた。震える指で真っ赤なコートに触れる。
 ロイはそのままベッドへと歩み、立ちつくすエドワードに両手を広げた。おいで、と笑ってやれば、頷きが返った。
 何度体を重ねても、なれない初々しいエドワードの反応はたまらなく魅力的だ。処女のようだといえば、また拳を握り締めて怒るんだろうか?
 いいや。
 処女だって、こんなに恥じらいはしないだろう。
 そして、こんなにいやらしくもないはずだ。
 ふらふらとひきよせられるように、エドワードはロイのもとへと歩いてゆく。その手から、タンクトップが落ち、もどかしそうにベルトが引き抜かれ、ズボンは脱ぎ捨てられた。流石に下着に手をかけることはできずに、下着一枚を残したエドワードは一度震えた。寒いわけではないことは、その肌の色が証明している。
 恥ずかしくてたまらない、というその顔がどんなに卑猥に男の目に映るかなんて考えたこともないんだろう。いたたまれなさをごまかすように、視線を床に落とし、右手で強く左の二の腕を掴んでいる。
 きれいなこだな、と改めて思う。
 もう、箍は外れてしまった。
 ロイが、エドワードの背後の一面の大鏡に気がついたのはそのときだった。安宿特有の下卑たセッティングに、エドワードは緊張のためか光源の少なさのためか全く気がついていない。ベッドの上の光景を丸ごと映す目的の意図は、ロイには手に取るようにわかる。
 教えないほうがよさそうだ、とちらりと目を走らせれば、エドワードの背中のなだらかなラインや布の上からでもわかる肉の薄い華奢な双丘、太ももの隙間までがありありと映し出されている。綺麗な背中だと思った。同時に情事の予感は、ロイをぞくぞくと震わせた。
「エドワード・・・・・ずっと君のことばかり考えていたよ。離れている間」
「・・・・・ソーデスカ」
 腕を引き、ベッドに押し倒す。覆いかぶさるような格好になり、エドワードの金色の双眸を捉える。
「・・・浮気してないか心配だった」
 少しでも緊張をほぐそうと笑ってやれば、エドワードは眉根を寄せてそれはこっちの台詞だと即座に返してきた。毒舌はどんな状況でも変わらないのだなと思えばおかしかった。
「こんなにかわいらしくて、・・・・・・いやらしくて」
 下着の上から、そっと撫でてやればそこはもう触れただけで硬く大きくなっていることがわかる。幾度か撫で上げればエドワードは泣きそうな表情でシーツを硬く握った。
 下着の横から指を忍ばせれば、びくりと体が揺れる。ロイは、冷たい機械鎧と皮膚の境目を撫でるのが好きだった。変態じみていると自分でも笑ってしまうけれど、ここで少年の美しい足は肉が途切れているのだと思うと、いつも胸が騒いだ。
 きつく寄せられた眉の下で大きな瞳が濡れたように光る。さらさらと流れる金髪は、プラチナに近い。下着を取り去ろうとし、ふと思い立ってロイはエドワードの三つ編みを解いた。あとすら残らないさらさらとした質感のそれが真っ白なシーツの上に散らばった。機械鎧の右手を取り、童話のように口付ける。
「・・・・・・・・・・・・・男を誘うような顔をしてる」
 唇を血が滲むほど噛んでいるエドワードに触れるだけの口付けを繰り返す。
 真っ白な腹を撫で、そのまま下着のなかに進入する。ゆっくりとその薄布を取り去って視線を落とせば、少年の未熟な果実はすでに立ち上がっていて、蜜を滲ませててらてらと光っている。宿の薄暗い明りのなかで、その光景は息を呑むほどいやらしく、ロイの目に映った。
 ごくり、と唾液を飲み下す。
「・・・・・・・・・・愛してるよ、鋼の」
 あからさまにその言葉にぴくりとエドワードの性器が震える。
「かわいいな。・・・・・・かわいい」
 首筋に顔を埋め、ロイは悪戯めいた仕草で舌を這わせる。くすぐったいのか、身をよじって抵抗するのだがアルコールは腕力すらエドワードから奪ってしまった。腕力も理性も箍も全て。
「・・・・・・オレばっか、脱がせてずり・・・っ」
 かわいい反論に笑い、ロイはエドワードの指先を自分の軍服の襟元に導く。
「君が脱がせてくれるか?」
「・・・・・・・・なんで、そーはずかしーことばっかゆーんだ・・・・・・!」
「どうしてでしょう」
 ああ、楽しくてたまらない。
 ふたりきりは、こんなに素直でいられる。それがロイはたまらなく嬉しかった。 
 幾度かの逡巡のあと、エドワードはロイの軍服に手をかけた。不器用に、ゆっくりと剥いでゆく。その指がシャツのボタンを外し、撫でるように肩からシャツをすべりおとし、ロイの胸板を不思議そうに、けれど淫蕩に撫でてゆく。
 こらえ切れずに、ロイは自らベルトを引き抜いた。チャックを下ろし、自ら下着に手を突っ込みそれを引きずり出す。エドワードは勃起した男のモノに息を飲んだ。
「・・・・・うつぶせて」
「・・・・・なに・・・」
「心配しなくてもいきなりいれたりしない。うつぶせて?・・・・・・そう、腰を高くしなさい」
「な・・・・・」
 獣の姿勢で、全てを晒す格好に覚える羞恥は快楽に繋がっている。けれどすぐには従えずにエドワードは屈辱に唇を噛む。
「・・・・・・して欲しければ、従いたまえ鋼の」
 唆される誘惑に抗えないのはアルコールのせいだろうか。うつぶせながら、ゆっくり膝を立てる。それに焦れたのか、ロイがその華奢な両足を掴み、左右に割り開いた。
 男の目の前で恥部を晒している自分の格好に、エドワードは泣きそうになりながらシーツに顔を埋めた。
 期待していることも事実だけれど。
「綺麗な色の蕾だね」
 ロイは笑い、ひくひくと震えている小さな蕾にちゅ、と口付けた。
「や・・・・!てめ・・・・・そんなとこ」
 途端に体を起こそうとするエドワードを押さえつけ、ロイは無造作にベッドサイドのテーブルに置かれた小瓶を手に取る。
「最初は冷たいが、我慢できるな?」
 どろりとした冷たい液体が肌に触れ、双丘の間を伝い、エドワードは悲鳴をあげた。それが男の手によって、ゆっくりと蕾に塗りこめられてゆく。
「・・・・うぁっ!」
「すぐに良くなる」
 ジュプと水音をさせて、ロイは第一関節まで指を沈める。じゅくじゅくと入り口だけをかき回すようにしてやれば、びくびくとエドワードの体は面白いようにはねた。
「や・・・・だッ・・・・・!あ・・・・・!」
 かきまわされる感触の、物足らなさにエドワードは怯えた。もっと深いところに触れて欲しくて腰が揺れる。とっくにこの体はロイに芯まで侵されていて、深い愛撫の味を知っている。いやらしい指が中を弄くるたびに、もどかしい疼きに耐えなければならない。けれど、どうやっても前には指一本ロイは触れようとはしなかった。指を増やし、入り口を執拗にかき回す。じいんと痺れる疼きに、もう耐えられなかった。
 はしたなく、自らの勃起に震える指を絡める。わずかに握った掌に力を込めるだけで、限界が近いのだろう、ぬるぬると先走りがこぼれてゆく。背後でロイが笑った。
「いい眺めだ。ほら、腰が落ちているぞ」
 射精感に追い立てられて、エドワードは必死に自ら慰める。
「ひ・・・・ンあぁっ・・・・・!」
「手伝ってやろう」
 そう、残酷な声は告げ、指を三本に増やし。一気に奥を抉った。
「ああー・・・・ッ・・・・・・!!」
 短い悲鳴とともに、エドワードの押さえた指の間からぱたぱたと精液が滴った。こらえ切れずにこぼしたそれにロイが指を伸ばす。
「・・・・・・・・一人でした?離れている間」
 ロイの指を白く汚しているのが自分の出した精液なのだと、理解するまでに数瞬を要した。膝ががくがくと射精の余韻に震えている。臍につくほど反り返った性器が、また一つ雫をこぼした。
 けれど、これだけで許すつもりがないのは明白だった。夜はこれからで、繋がってもいないのだから。
「鋼の?まさかもうおしまいだと思っているわけじゃないだろう?」
 震える体を無理やり起こされ、膝の上に抱え上げられる。背中に男の勃起が直接触れ、その硬さと熱さにエドワードは、今だ物足りなくひくつく蕾の疼きを認識する。じんじんと痺れ、ものたらなさに悲鳴を上げているそこに、無意識に男のモノを擦り付けた。
「も・・・・・・・・・・・・大佐・・・たいさぁ・・・」
 自ら腰を浮かし、男の肉棒に触れてそこへ導く。さんざん嬲られ蕩けたそこは、簡単に口を開き先端を飲み込んだ。
「エドワード・・・もっと足を開いて?そう」
 ロイが太ももを掴み、見せ付けるようにエドワードの足を開いてゆく。
「鋼の・・・・君が私を飲み込むところが見える?」
 淫らな問いに頭を振る。。欲しくて欲しくて気が狂いそうだ。ロイはぬるつく先で、蕾を弄るばかりでちっとも先へ進むことを許さない。
「おねが・・・・・大佐・・・・・お願い・・・・・・もう・・・ぇ・・・っ・・・」
 鏡の中で、エドワードは淫蕩に身をよじらせている。ため息に似た喘ぎをこぼしなら、浅ましくねだる。
「ではみてみなさい。君のこの小さな穴に私のモノがねじ込まれるところを」
 ぐい、と後ろから顎をつかまれ正面を向かされる。
 そこに映る自分の痴態にエドワードは息を呑んだ。
 両足を大きく開き、男の性器をねだって腰を揺らしている自分。射精したばかりだというのに、再び腹につくほど立ち上がり蜜をこぼしている部分まで、余すことなく鏡が映し出していた。
「てめえ・・・・・・!このっ・・・・・・変態!!!」
「ほら、よくみたまえ」
 ずちゅ、と嫌な音を立てて男の屹立がそこへ突き入れられた。どくどくと脈打つそれが、疼きを満たし快楽を助長する。
「うあ・・・・・・アッ・・・アッ・・・・!」
 視界が七色に爆ぜた。
 中をこすられ、ゆすられ、かきまわされている。腰をつかまれ、人形のように揺さぶられながらエドワードは短く喘ぐ。
「鋼の、顔を上げろ。そして繋がっているところをみてごらん。ほら、あんなに大きく口を開けて私を飲み込んでる。いやらしい顔をしてる。君の性器も、あんなに涎をこぼしている」
 すでにその声も届かず、快楽だけを追う。腰を淫らに揺らし、自分のイイ部分に当たるように蕾を押し付ける。体勢がつらいのか、そのままでは上手に動けないのか、エドワードは自ら四肢を突き、繋がったまま犬のように這い蹲る。後ろから深く犯されて、また一つ悲鳴を上げた。
 もう言葉はお互いにない。ぬちゃぬちゃと淫猥な水音と衣擦れ、喘ぎだけが部屋に満ちた。
 揺さぶられながら、顔を起こしてエドワードは鏡の向こうの自分を無意識に見ていた。
 口の端から涎をこぼし、みっともない喘ぎを繰り返し、尻を犯される自分の姿は無様で醜かった。
 下ろした髪が女のようだと思ったけれど、それも一瞬のことだった。
 中に出すぞと短く告げられ、お互いの行き着く先を知る。
 いっそう激しく突き入れられ、エドワードはもういちど達した。








「もう、アルコールは絶対のまねー」
 がんがんと頭をハンマーで叩き割られ続けているような激痛をこらえ、儚い表情でエドワードが呟いた。
 どうやって帰ってきたのか、それすら判然としない。最近やたら中尉と仲がいいらしいアルフォンスは(愛犬家つながりで)、昨日は遅くなるといった兄の言葉を信じて、ホークアイの家に泊まりにいっている。よって、アルフォンスには兄がどうやって帰ってきた家など知りようもないわけで。
 たしか、大佐のおごりで夕食をとり、意地になってワインをラッパのみしてラッパのみして、盛大に吐いて、そしてまたラッパ飲みしたはずだ。
 そこから先の記憶が全くない。
 これっぽっちもない。
 そしてなぜか、朝起きて立ち上がれば口に出せない恥ずかしい部分が痺れるように痛み、腰には異様な負荷を感じる。極め付けには、じわりと下着の濡れる感触がして、あわててトイレに行けばそれは解釈のしようもなく、精液以外の何者でもない液体が大量に付着していた。しかも、未だに中からこぼれてくる。
 一瞬炎のような怒りが心に芽生えたが、けれど同時に疑問がわいた。



・・・・・・ほんとに大佐か?



 なんせ記憶がない。
 もしかしたらもしかしてありえないとはおもうが、万が一、いや千分の一の確率でもしかして。
 

 違う男かもしれない。


 ぞっと、背中を氷塊がすべる。
 そうだ。なんせ記憶がない。
 そんなに自分は貞操の軽い人間ではないと思うものの、けれど確証もない。
 
 テメエ、大佐よっぱらいをすき放題にやりゃあがって、ともし啖呵を切ったときに
「私じゃないぞ」とでもいわれたら、どうしたらいいんだろう。
 付け加えれば、29歳といっても浮気には寛大な、そんな度量の広い男じゃないことは充分すぎるほどに実証されている。むしろ母親を独占する幼児なみに狭量な男だ。下手に権力があるぶん幼児よりたちがわるい。吊るして火あぶりくらいは平気でする男だ。
  ありうることだ。
 大概あの男もいかれてっからな・・・・。
 と恋人にあるまじき評価をくだし、そしてエドワードは結論をはじきだした。



 忘れよう。


 うんそうだ。いいアイデアだ。忘れるに限る。








 犬にでもかまれたと思って。